20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:トライアングル 作者:三日月

最終回   2
 柏木真一は中学三年の時、晴美のいる中学校に転校をしてきた。
 その時は、互いに特別な感情は持っていなかったらしい。
 高校は、同じ公立高校に進学をし、二年生の時に再び、同じクラスになった。
 晴美が真一のことを意識し始めたのは、その頃のことらしい。

 真一は頭も良く、運動神経も良かった。
 成績は学年の中でも十番に入る程で、部活では、野球部でエースをしていた。
 女子生徒からの人気も高かったらしい。

 当時はまだ、真一も晴美も、付き合っている相手はいなかった。
 互いに、告白をされることはあったが、全て、交際は断っていた。
 晴美の場合は、男にあまり関心がなかったということもある。
 男の人を好きになったのは、真一が初めてだった。

 晴美は、真一に告白をした。
 勇気のいることだったが、当時の仲の良かった同級生に協力をしてもらう。
 放課後、高校の近くにあった公園に真一を呼びだした。
 晴美はそこで真一に告白をする。
「私と、付き合ってもらえませんか」
「いいですよ。僕でよければ」
 真一は、あっさりと承諾してくれた。
 晴美が喜んだのは、言うまでもない。
 後で聞けば、真一は中学の時から、晴美に片思いをしていたということである。
 一目惚れだったらしい。

 交際は順調に進んだ。
 高校二年、三年が過ぎ、大学は同じ東京の大学に進学をした。
 大学四年間も、順調に交際をする。
 そして、大学卒業後、真一は東京で就職をし、晴美は実家に帰った。
「なぜ、東京に残らなかったの」
 と、哲夫は聞いてみる。
「東京で仕事をする気にはならなかったから。それに、地元が好きだったし、地元で暮らしたかったからかな」
 晴美は言う。
「柏木くんは、反対はしなかったの」
「彼は、私のすることに反対はしない。でも、寂しいとは言っていた」
「彼とは、いつまで付き合っていたの」
「三十歳の時までよ。私たちは、結婚をするつもりだったから」
「なぜ、結婚をしなかったの」
「それは、わからないけど。やっぱり、彼の仕事の都合と、タイミングかな。彼は東京で仕事をしているし、将来は転勤も多い仕事だったから、私にはついて行く自信がなかった。それで、ずるずる、三十歳まで来てしまったというところかな。彼には、悪いことをしてしまったと思っている。彼のことを好きだと言う女性も多かっただろうし」
「それは、晴美の場合も同じだと思うよ。言い寄って来る男は多かったと思うけど、今まで彼一筋で来たわけだから」
「私はいいのよ。彼と一緒で、幸せだったからね。それに、彼と別れたおかげで、哲夫にも会えたし」
「俺と、柏木くんと比べたら、どちらがいい男だと思う?」
「比べることはできない。柏木くんは柏木くんで、哲夫は哲夫だから」
「じゃあ、柏木くんと俺の、どちらが好き?」
「それは、わからない。比べることはできないから」
 晴美は、はっきりとした答えを出さなかった。
 まだ、柏木真一に未練があるのかと、哲夫は思った。

 それから半月後。
 晴美がふと、意外なことを言った。
「柏木くんが、こっちに帰って来ているみたいなの。会いに行ってもいい?」
「会って、どうするの」
 哲夫は聞き返す。内心、動揺していた。
「別に、どうもしない。話をするだけよ」
「俺も、会ってみたいな。連れて行ってくれないか」
「いいわよ。一度、紹介をしておきたいと思っていたの」
 晴美は、真一と連絡を取った。
 次の土曜日に、井原市内のレストランで、一緒に夕食を取ることになった。
 哲夫は、興味半分、不安が半分だった。

 約束の日、哲夫と晴美は車で待ち合わせ場所であるレストランに出かけた。
 予約席に座り、真一が来るのを待つ。
 間もなく、洒落た男が、店内に姿を現した。
「来た。彼がそう」
 晴美は言い、男を呼んだ。
「初めまして。柏木です」
 真一は言った。
「座って」
 と、晴美は真一に言った。
 晴美は真一に哲夫を紹介する。
 晴美が結婚をしているということは、すでに知っているのだろう。
 真一は自分の近況を話し、晴美の近況を聞く。
 真一は、今は札幌の支店にいるということだった。
 仕事は、かなり忙しいらしい。
 晴美は結婚生活を話す。
 真一はそれを、頷きながら聞いていた。
 時折、哲夫も、真一と言葉を交わす。
 なかなかの好印象だった。
 真面目で、言葉遣いもしっかりしている。
 なかなかの二枚目で、身長も結構、高い。
 これで、運動神経も良く、頭もいいとなれば、女にもてないわけがない。
 晴美が好きになった理由もわかる気がした。

 食事を終え、三人はレストランを出た。
 真一とはそこで別れるつもりだったが、真一が、そこで意外なことを言う。
「ちょっと、哲夫さんと二人で話がしたい。晴美は、どこかに行っていてくれないか」
 晴美は怪訝な顔をしながらも、先に車のある駐車場に言った。
 残された哲夫も、少し戸惑う。
 晴美が見えなくなると、真一は一息ついた。
 そして、
「哲夫さんにお願いがあります」
 と言うと、哲夫の足元にひざまずく。
「晴美を、僕に返してくれませんか。お願いします」
 真一は哲夫に土下座をした。
 哲夫は驚く。
「顔を上げてよ」
 と、哲夫は真一を立たせる。
 真一はもう一度、深く頭を下げた。
「悪いけど、晴美を君に渡すことはできない。もう、遅いよ」
「遅いのは、わかっています。僕の決断が、遅かった。結婚をするのがわかっていれば」
「後悔をしているという訳か」
「はい。晴美と別れたことは、ずっと後悔していました」
「いい女だよ、彼女は。僕はもう、絶対に手放さない。例え、晴美が君のところに行きたいと言ったとしても」
「彼女の意思は?」
「関係ない。これは僕の意思だから」
 申し訳ないが、それは出来ない。と、言い残し、哲夫は真一と別れた。
 車に戻ると、晴美は車の隣で待っていた。
「何の話だったの」
「いや。別に、何でもないよ」
 哲夫は晴美を助手席に乗せると、自分は運転席に乗り込む。
 駐車場から出る時、真一はまだレストランの前にいた。
 晴美は、真一の方に小さく手を振る。
 真一は笑顔で、それに手を振り返した。


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 853