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作品名:トライアングル 作者:三日月

第1回   1
 二年前に結婚をして、今では子供が一人いる。
 妻の名前は晴美、子供の名前は健人という。
 晴美とは、お見合い結婚だった。
 近所に住んでいる、知り合いのおばさんの紹介だった。
 哲夫もすでに三十五歳を越え、周囲から、結婚を勧めも多かった。
 結婚にはそれほど関心がなかったが、半ば強引なお見合いで、晴美と出会った。
 それで、結婚を決めたのである。

 結婚生活に不満はない。
 むしろ、幸せすぎるくらいである。
 晴美は、哲夫よりも三つ年下の三十二歳だった。
 外見も、性格も、申し分のない、よく出来た女性である。
 なぜ今まで結婚をしていなかったのか不思議なくらいだった。
 そして、なぜ自分との結婚を承諾してくれたのか、哲夫には不思議でならなかった。

 哲夫は、晴美の過去をあまりよく知らない。
 晴美は、隣の井原市で生まれ育った。
 高校までは地元の学校に通い、大学は、東京の大学に進学したということである。
 大学卒業後は、また実家に戻って来た。
 仕事は、実家に帰ってから、哲夫と結婚をするまでずっと、郵便局でアルバイトをしていたそうである。
 どこかの会社に就職をしようという気持ちは無かったらしい。
 しかし、それは、女性では珍しいことではないだろう。
 その内に結婚をすれば、生活は安定する。
 そう思っている女性も多いのかもしれない。

 晴美の友達は、結婚式に二人が来ていた。
 もちろん、二人とも女性で、どちらも、小学校の頃からの友達だと言っていた。
 一人は荒川瞳。もう一人は正田千恵子といった。
 結婚をしてからも、晴美は彼女たちと時々、連絡を取り合っているようである。
 時折、遊びに出かけることは構わない。
 哲夫は晴美を、家の中に縛っておくつもりはなかった。

 晴美には、男の影がない。
 それが少し、哲夫には気がかりだった。
 これだけの出来た女性が、過去に恋人の一人や二人、いなかったわけがない。
 しかし、晴美はそれを、自分から話そうとはしなかった。
 哲夫としても、自分から強引に聞き出すわけにもいかなかった。

 週末の土曜日。晴美は健太を連れて二人で実家に帰っていた。
 哲夫は、アパートに一人。久し振りに一人で一晩を過ごした。
 日曜日の昼までには、晴美は健太を連れてアパートに帰って来るはずだった。
 朝、十時頃に目を覚ました哲夫は、ぼんやりとテレビを見ていた。
 十一時を過ぎたところで、電話があった。
「後、一時間ほどで帰るから」
 と、晴美は言う。
「それから、瞳がそっちに行くと思うから、待ってもらって」
 晴美はそう言って、電話を切る。
 それから十分もしないうちに、瞳が部屋を訪れた。
「ちょっと、早すぎたかな」
 と、瞳は言ったが、
「晴美から話は聞いています。上がってください」
 と、哲夫は彼女を部屋に上げた。
 哲夫は瞳にコーヒーを入れる。
「お構い無く」
 と、瞳は言った。
 瞳はすでに結婚をしていて、子供もいる。
 子供はすでに小学生で、今日は旦那が面倒を見ているのだろう。
「今日は、何の用ですか」
「ちょっと、話をしようと思いまして。いいですよね」
「もちろん、いいですよ。後、三十分もすれば、帰って来ると思います」
 哲夫は、しばらく瞳と雑談をした。
 話の内容は自然と晴美のことになる。
「晴美には、恋人はいたのですか」
 哲夫は聞いてみる。
「いましたよ。晴美は、もてましたから」
「何人くらいの男と、付き合っていたのでしょう」
「私が知っているのは、一人だけです。多くの男性から、告白をされたようですが、晴美はその彼、一筋だったようです」
「その彼の名前はわかりますか」
「わかりますよ。柏木真一といいます。私たちの同級生です」
「余程、いい男だったのですか」
「どうでしょう。普通の男ですよ」
「晴美はその男のどこが好きだったのでしょうか」
「さあ、そこまでは聞いたことがありません。でも、好みは人それぞれですから、晴美の好みに合っていたのでしょうね」
 哲夫は柏木真一がどういう男かを想像する。
 しかし、何もわからないのに、具体像が浮かぶわけでもない。
 晴美はそれから間もなく、健太を連れて帰って来た。
「遅くなって、ごめん」
 晴美は哲夫と瞳に言う。
 健太は瞳を見て、笑っていた。

 夜は、同じ部屋で寝る。
 しかし、布団は別々である。
 健太は先に眠っていた。
 晴美は雑誌を読み、哲夫は小さな音でテレビを見ていた。
「ねえ」
 と、哲夫は晴美に声をかける。
「柏木真一って、どういう人?」
「え? 瞳が、何か話したの?」
「晴美が、昔、付き合っていた男だって」
「余計なことを……」
「別に、話したくないなら、聞こうとは思わないけど」
「別に、いいわよ。隠しておくほどのことでもないから」
 晴美は柏木真一のことを話し出した。
 哲夫は、テレビを消して、それを聞いた。


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