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作品名:暖かさと、冷たさと。 作者:三日月

第2回   2
 響子は、明を連れて、マンションの自分の部屋に戻る。
 とりあえず、明を風呂に入れることにした。明は、素直に、響子の入れた風呂に入る。
 響子は、明が風呂に入っている間に、簡単な手料理を作った。
 風呂から出た明は、響子の料理を黙々と食べた。
「うちの会社に来ない? 従業員なら、募集しているわよ」
「住所不定の人間など、雇ってはくれないと思うよ」
「私が、保証人になれば、大丈夫よ。これでも、会社には信用があると思うから」
「花村の世話にはならない。俺のことは、もう気にしないでくれ」
「そうは、行かない。必ず、何とかするから」
 明は、料理を食べると、部屋を出て行く。
「お腹がすいたら、ここに来て。御飯くらい、いつでも食べさせてあげるから」
 響子はそう言って、明を送った。
 これからも、様子は見て行くつもりだった。

 恋人の岸田紀夫には、明のことはしばらく黙っていた。今さら、昔の恋人を構っていると知ったら、紀夫は良い気持ちはしないだろうと思っていた。
 しかし、響子は、いつまでも恋人に秘密を持っていられる性格でもなかった。その内に我慢が出来なくなり、自分から話をすることになる。
「ちょっと、話があるの」
 響子は、部屋に遊びに来ていた紀夫に言った。
「何? 真剣な顔で」
「実は、私の昔の知り合いが、そこの中央公園でホームレスをしているの。それで、ちょっと、気になっていて」
「ホームレスか。それは、男? それとも女?」
「男よ。学生時代からの友達なの」
「何で、ホームレスに?」
「それが、わからないの。はっきりとしたことは、教えてくれない」
「それで、響子は、どうしたいの? その友達のこと」
「もちろん、立ち直らせてあげたいと思っているけど」
「仕事と、住む場所の世話でもしてあげるつもりなの?」
「それも、話してみたけど、余計なお世話だって、断られた」
「余計なお世話か。だったら、無理に手を出さない方がいいと思うけど」
「放っておけ、ってこと? それは、私には出来ない」
「だろうな。響子の性格からして、そう思う」
「どうすれば、いいと思う?」
 響子は紀夫に相談をしてみた。紀夫なら、真面目に相談に乗ってくれるだろうと思う。
 紀夫は、少し考えて、
「俺が、話をしてみようか?」
 と、言った。
「もしかすると、第三者の方が、話しやすいことがあるかも」
 紀夫は言う。
 響子は、紀夫を、明に会わせてみることにした。

 響子は、紀夫を連れて公園に行くと、明の姿を探した。
 明は、自分の段ボールハウスの隣で、どこかで買ったのか、拾ったのか、一冊の文庫本を読んでいた。
 響子は、明を呼ぶ。
 明は、響子の声を聞くと、文庫本を置いて、立ち上がった。
「ちょっと、来て」
 と、響子は、明をまた、公園北側にあるベンチに誘う。そこに、紀夫は待っていた。
「こんにちは」
 と、紀夫は、明に挨拶をする。
「誰?」
 と、明は響子に言った。
「私が今、付き合っている人よ。岸田くん」
「どういうつもり?」
「高島くんのことを話したら、岸田くんが、話をしてみたいというから、連れて来たの」
 明と紀夫は、互いに会釈を交わした。
「ちょっと、どこかに行っていてくれないか。話をするなら、二人でしたい」
 明は言う。
 響子は、明の言葉を紀夫に話し、その場を離れた。
 少し離れたところにある噴水の傍で、二人の話が終わるのを待つことにした。



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