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作品名:独立戦争と一人の男 作者:三日月

第3回   3
 白い建物を出た和夫は、どこにも行くあてがなかった。この九州は、いわば敵地である。品川が自分を見逃がしたということは、どういう意味かと考える。品川は、自分の未来を知っているということだろうかと思う。
 とりあえず、一美から聞いた地下組織と連絡を取りたいと思った。もしかすると、自分を保護してくれるかもしれない。しかし、その連絡を取る方法がわからなかった。地下組織がどこに存在をしているのか、まるでわからないのである。
 唯一の接点とすれば、九州に上陸をして時に手を貸してくれた漁師だった。あの漁師は地下組織の関係者に違いない。
 しかし、和夫はそれほど心配をする必要もなかった。白い建物を出てしばらく歩いていると、一人の男が、ふと和夫の隣に並んだ。
「そのまま歩いて、三つ目の信号を右に曲がれ。そこに『満月』という喫茶店があるから、そこに入れ」
 男は、それだけ言って、離れて行く。何も聞き返す余裕がないまま、和夫は不可解に思ったが、男の言われた通り歩くと「満月」という喫茶店があった。和夫はそこに入る。
 小さな店内である。他に客はいないようで、和夫はカウンターに座った。
「野村和夫くんだね」
 カウンターの中にいた、年配の男が言った。この店の店主らしい。
「どうして、俺の名前を?」
「ここは、反独立組織の連絡所だよ。野村くんがここに来る機会を待っていた」
「ここが、そうですか。俺も、矢口さんから聞いて、何とか連絡を取れないかと思っていたのです」
「矢口の失踪を聞いた時、すぐに野村くんと連絡を取るために人を送ったのだが、すでに遅かった。品川の動きの方が、早かった」
「品川靖男を御存じですか」
「品川の動きは、こちらも監視しているよ。品川は、独立軍の動きを握っている」
「未来が見えると話していました」
「それは、おそらく事実だろう。うちの組織でも、何人もの人間がやられている」
「自衛隊も、独立軍の軍事行動には完敗です」
「品川靖男を取り除かなければ、独立政府を倒すことはできない。そのための手段を考えているところだ」
 この喫茶店の店主は、北川という名前だった。北川は、野村に下関に送ってやろうと話をした。しかし、野村は、しばらく九州に留まることを希望する。
「品川とは幼馴染みですから、俺も何とかしたいと思います」
 野村は北川に言った。
「ならば、どこかに潜伏先を見つけないと。何かと、手助けをしてもらうかもわからない」
 北川は言った。
 野村は、覚悟を決める。

 和夫は、ある女性がいるマンションの部屋に住むことになった。やはり、男女のペアの方が周囲から怪しまれることもなく、自然だということがあるのだろう。
 女性の名前は、井口広美という。パソコンのソフトを作る会社で仕事をしているということだった。小柄でかわいらしい女性で、一見、地下組織の人間とは思えなかった。
「君は、なぜ地下組織に参加をしているの」
 和夫は聞いてみる。
「お金のためよ。私には、お金が必要なの」
「思想の問題じゃないのか」
「人には、それぞれ、事情があるのよ」
「君の事情とは」
「知らない方がいいわよ。あまり深いことは」
 お互いにその方が安全だと広美は言った。それは、その通りかもしれない。
 広美は毎朝、仕事に出かけて行く。他の一般人と変わらない、ごく普通の生活をしているようである。和夫は、部屋に一人で残る。何もすることはないので、とりあえずテレビを見て時間を潰す。
 品川は、こういう自分の姿も予知していたのだろうかと思う。つまらない場面である。
 地下組織も、品川の命を狙っているらしい。品川を殺さなければ、独立政府を倒すことはできない。しかし、品川は、自分の身の危険を、事前に予知することができる。それが、大きな問題である。和夫は暇に任せて、あれこれと空想をしてみる。もし、品川を殺すとすれば、どのような手段があるのだろうか。
 物理的に人を接近させて、殺すというのは不可能だろう。品川はそれを事前に予知し、未然に防ぐことができる。ならば、人を近付けずに、殺す方法はないのだろうか。もしくは品川がもし仮に命の危険を予知しても、回避不可能な状態に落ち込ませることはできないのだろうか。
 他人の頭の中の思考までは、品川も予知はできないはずである。思考することによって品川を殺すことができるのなら、品川にはそれを防ぐ術はない。
 思考で人を殺す。そのようなことが出来る人間は、まさに超能力者だろう。未来を予知できる品川も超能力者の一人である。もしかすると、思考によって人が殺せる人間も、どこかに存在しているのかもしれない。
 しかし、和夫は、それを言葉にすることも、行動に移すこともできなかった。もし表面に出せば、それは品川に知られることになってしまう。和夫は、しばらく考え、一つの方法に到着した。和夫は、広美の帰宅を待って、こう話した。
「超能力って、信じる?」
「もちろん、信じるわよ。だって品川さんだって、超能力者ということでしょう」
「品川という超能力者が存在するということは、他にも超能力者はいるということか。それは、どう思う?」
「これは、噂だけど、地下組織の中にも、超能力者がいるらしいわよ。私は会ったことがないから、どういう人なのかわからないけど」
「興味があるな。一度、会ってみたい」
「会ってどうするの」
「毎日、暇だから、何か面白いことはないかと思って」
「北川さんに聞いてみるのが、一番だと思う。あの人が、何かと情報を持っているから」
 翌日、和夫は、北川の喫茶店に出かける。相変わらず、店内に他の客はいない。
「今日は、どうした」
 北川が言う。
 和夫は、またカウンターに座って、コーヒーを入れてもらうことにした。
「実は、井口さんから聞いたのですが、地下組織の中にも超能力者がいるそうですね」
「井口がそんなことを言ったのか。確かに、居ることは居るけど」
「会わせてもらえませんか。興味があります」
「それは構わないが。会って、どうする? それほど、役には立たない、些細な能力を持っているだけだぞ」
「それでも構いません。品川に会ってから、超能力というものに興味を持ちまして」
 それなら、三日後の午後三時に、またこの店に来いと北川は言った。
 和夫はコーヒーを飲み干して、店を出る。



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