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作品名:草をむしる 作者:三日月

第3回   3
 昼休みには、社員食堂で昼食を食べる。何を食べても外で食べるよりも安いのだが、外に食べに行く人も結構、多い。
 井川先輩も、昇と同じく、毎日、社員食堂で昼食を食べていた。井川は、食堂の隅に座って、新聞を読みながら定食を食べている。昇は、その隣に座る。
「井川さんは、この課に来て、どのくらいですか」
 昇は聞いてみる。
「さあ、そろそろ七年かな」
「今の仕事に、満足ですか」
「面白いことを聞くな。とりあえず、満足だよ」
「井川さんは、奥さんは、お弁当を作ってくれないのですか」
「僕には、奥さんはいない。十年前に病気で死んだ」
「そうだったのですか。すみません」
「中山くんは、結婚は」
「僕は、結婚はまだです」
「そうなのか。もういい歳だろう」
「はあ。ですけど、僕は、女性にはもてませんので」
「それは、寂しいよな。やっぱり、恋人くらいは欲しいだろう」
「ですね。結婚をしている人が、うらやましいです」
 井川から直接、聞きたいことは聞けなかったが、かわりに、古畑先輩に話を聞く。
 古畑は、井川のことにも詳しいようだった。古畑は、井川の二年先輩になる。以前は、営業で一緒に仕事をしたこともあるらしい。
「井川は、奥さんを亡くしてから、仕事に対して意欲をなくしてしまったようだ」
 草むしりをしながら、古畑は言う。
「今の仕事も、それほど欲はなく、適当に流しているだけじゃないのかな。井川にとって、もう、人生にそれほどのこだわりはないようだ。奥さんが、彼にとっての全てだったのだろう。今も、彼は、奥さんとの思い出の中に生きているのかな」
 古畑は言う。
 いわば、井川先輩は、世捨て人に近い感じらしいと、昇は解釈をした。
 今の仕事は、井川先輩にとって、それほど大きなものではないのだろう。


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