20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:共振 作者:三日月

最終回   8
 電車を降りると、洋子の住んでいたアパートから、賢治の教えてくれた住所を頼りに道を歩き、昭雄と美和子は、コンビニエンスストアを見つけた。
 中に入ると、若い女性と男性の二人の店員が、レジで客の応対をしていた。
 昭雄は何げに近づき、男性店員の名札を見る。そこには確かに「青木」という名前が書かれてあった。
「間違い無いよ。あの男が青木将太だ」
 昭雄は言う。
「何か、感じる。すごく不快な感じ」
 美和子は言った。そして、店を出る。
 昭雄は、特別に何も感じなかった。洋子や美和子には、女性に特有な何かがあるのかもしれないと思う。
 昭雄は店の中に残り、心を集中させた。青木将太の心から何かを読みとろうと思ったが、昭雄は超能力者ではない。結局は無駄だった。
 アイスを片手に、昭雄は青木に近づいた。
「いらっしゃいませ」
 と、青木が昭雄に声をかける。
 昭雄がアイスをレジの上に置いたその時、心の中で何かが弾けたような気がした。
 ほんの一瞬、意識が途切れる。
 気がつけば、青木はレジの向こうで倒れていた。
 隣のレジにいた女性店員が悲鳴を上げた。
 混乱の中、昭雄を何が起きたのかわからないまま、店を出た。
「何があったの」
 美和子は聞いたが、昭雄には答えられなかった。

 その時、洋子が、賢治の部屋で意識を失っていた。
 これは、後でわかったことである。
 洋子の心の中の衝動が、昭雄を通じて青木将太を直撃したらしい。
 青木将太はその後、意識を取り戻すことはなかった。
 そして、洋子も……。

 心の共振は、これから先も続いて行く。
 昭雄は美和子を、そして、美和子は昭雄を必要としていた。
 賢治は洋子を失い、その心を見失ってしまったようだった。
 意識を失った洋子の傍で、賢治はひたすら、彼女の心に呼びかけて行く。
「目を覚ませ」
 しかし、洋子は心を閉ざしたままだった。
 目覚めるのはいつのことか、わかるはずもなかった。


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2095