電車を降りると、洋子の住んでいたアパートから、賢治の教えてくれた住所を頼りに道を歩き、昭雄と美和子は、コンビニエンスストアを見つけた。 中に入ると、若い女性と男性の二人の店員が、レジで客の応対をしていた。 昭雄は何げに近づき、男性店員の名札を見る。そこには確かに「青木」という名前が書かれてあった。 「間違い無いよ。あの男が青木将太だ」 昭雄は言う。 「何か、感じる。すごく不快な感じ」 美和子は言った。そして、店を出る。 昭雄は、特別に何も感じなかった。洋子や美和子には、女性に特有な何かがあるのかもしれないと思う。 昭雄は店の中に残り、心を集中させた。青木将太の心から何かを読みとろうと思ったが、昭雄は超能力者ではない。結局は無駄だった。 アイスを片手に、昭雄は青木に近づいた。 「いらっしゃいませ」 と、青木が昭雄に声をかける。 昭雄がアイスをレジの上に置いたその時、心の中で何かが弾けたような気がした。 ほんの一瞬、意識が途切れる。 気がつけば、青木はレジの向こうで倒れていた。 隣のレジにいた女性店員が悲鳴を上げた。 混乱の中、昭雄を何が起きたのかわからないまま、店を出た。 「何があったの」 美和子は聞いたが、昭雄には答えられなかった。
その時、洋子が、賢治の部屋で意識を失っていた。 これは、後でわかったことである。 洋子の心の中の衝動が、昭雄を通じて青木将太を直撃したらしい。 青木将太はその後、意識を取り戻すことはなかった。 そして、洋子も……。
心の共振は、これから先も続いて行く。 昭雄は美和子を、そして、美和子は昭雄を必要としていた。 賢治は洋子を失い、その心を見失ってしまったようだった。 意識を失った洋子の傍で、賢治はひたすら、彼女の心に呼びかけて行く。 「目を覚ませ」 しかし、洋子は心を閉ざしたままだった。 目覚めるのはいつのことか、わかるはずもなかった。
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