洋子の心は、それから二週間が経過したが、回復の見込みは立たなかった。 もしかすると、洋子の心は、自分たちの心よりもさらに敏感なのではないかと、昭雄は思う。 毎週、土曜日になると、昭雄は美和子と一緒に、賢治の部屋に洋子の様子を見に出かけた。 洋子はいつも、布団の中で寝たきりだった。 洋子は、精神安定剤を服用していた。心を落ち着かせるには、自分たちが傍にいることの他に、それしか方法がないらしい。 精神安定剤は、賢治が病院に行ってもらって来る。洋子は、部屋から外には出られない状態のようだった。 「ストーカー男を遠ざければ、解決になるのかな」 昭雄は言ってみる。 「それは、根本的な解決にはならないと思う。その男は、一時、警察に逮捕されていたが、今ではもう釈放をされて自由の身らしい」 賢治は言った。 ストーカー男は、当然、今、洋子が賢治の部屋にいることを知らない。洋子には近づき様がないはずである。 それでも、いまだに、その男は洋子の心を苦しめているようでもあった。単なる、錯覚かもしれないが。 「ストーカー男は、どのような男ですか」 昭雄は聞いた。 「青木将太。二十五歳。川上さんの住んでいるアパートの近くに、部屋を借りてすんでいるという話だ。一応、仕事もしているようだが、事件の後は会社を首になり、今は、コンビニエンスストアで店員のアルバイトをしている」 賢治は答える。 「詳しいですね」 昭雄は言う。 「僕なりに、相手のことは調べてある。警察も教えてくれたし」 賢治は言った。 「僕は、ちょっと、その男に会って来ます」 昭雄はそう言って賢治の部屋を出た。美和子も、その後に続いて、部屋を出た。 「何をするつもりなの」 美和子は言った。 「わからないけど、その男に会えば、何か答えも見つかるかと思って」 昭雄は、賢治の教えてくれた住所を頼りに、青木将太の勤めるコンビニを探すことにした。 電車に乗り、その町に向かう。
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