ストーカー男に襲われた洋子の恐怖は、相当なものだったらしい。微弱な心の揺れは、昭雄も時折、感じていた。 美和子の話によれば、洋子は賢治のところに身を寄せることにしたらしい。その方が安全だろうと、昭雄も思った。 「川上さんは、篠原さんのことが好きなのかな」 昭雄は美和子に聞く。 「それは、好きだと思うわよ。共通の心を持つ人は、そうそう、見つけられるものではないと思うから」 「それなら、里中さんは、僕のことが好きなのかな」 昭雄は勇気を出して聞いてみた。 「そうね。そういうことになるのかな」 はっきりとしない返事だったが、好きだと言ってくれたことは確かだった。 昭雄は、内心、喜んだ。 お互い、両思いということである。 しかし、その話を深く掘り下げることはやめておいた。あまり深く追求すると、幸せが逃げて行きそうな気がした。 一方、洋子の方である。 洋子が、賢治の部屋に住むようになってから一週間が経った。 そして、次の土曜日、昭雄は美和子と一緒に賢治の部屋を訪れる。 微弱な心の揺れは、美和子も感じていたようだった。美和子も、洋子のことを心配していた。 部屋に上がると、洋子は畳の上に敷かれた布団の中で横になっていた。 一見して、以前よりも痩せているのがわかった。 「大丈夫ですか?」 美和子は思わず、声をかける。 「あなたたちが来てくれると、随分、気分も楽ね」 洋子は言った。 「最近は、僕が傍にいないと心が落ち着かないらしい。大学も、しばらく休んでいる」 賢治は言う。 「病院には、行った?」 美和子は聞く。 「病院に行って、どうするの? 私たちのことが、医者にわかるとは思えない」 洋子は言う。 「やっぱり、ストーカーの一件が、原因ですか」 昭雄は言う。 「多分ね……」 美和子は言った。 昭雄は心の揺れを感じる。それは、他の二人も同じはずだった。 「敏感になりすぎているのよ。私の心が」 美和子は言う。 「落ち着かせる方法はあるのですか」 昭雄は言う。 「わからない。とりあえず、今は、僕が傍に居ることが一番だ」 賢治は言った。 洋子の心は、次第に落ち着いて来たようだった。
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