それから、昭雄は、帰宅をする時には電車を一本、遅らせることにした。もちろん、里中美和子に会うためである。 彼女の傍にいると、胸が高鳴る。 やはり、彼女のことが好きなのだろうと思った。 顔を見ると挨拶をし、一緒に電車に乗り込む。彼女もまた、自分のことを嫌いではないようだと、昭雄は思った。 座席に座り、他愛のない話をする。 彼女の考えが、時折、読めるような気がした。 しかし、それは錯覚に過ぎないのだろう。 彼女は、昭雄が降りる駅の三つ手前で電車を降りる。 「じゃあ、また明日」 と、昭雄は、美和子に言う。 「うん、また明日」 と、美和子は言って、手を振った。 和夫は、美和子にははっきりと振られていた。和夫にとって、彼女は大勢いる女性の中の一人で、それほど、こだわりはないようだった。 和夫は、昭雄が、電車を遅らせて、美和子と一緒に帰っていることを知っている。 しかし、今ではもう、それほど気にはしていないようだった。 「里中さんとは、うまくいっているのか」 「まあね」 「デートには、もう誘ったのか」 「いや、まだだけど」 デートに誘うというのは、勇気のいるものである。しかし、そこは勇気を出さなければ、男ではない。 「今度の土曜日、二人でどこかに遊びに行かないか」 昭雄は電車の中で美和子に言った。 「うん。それは、私も考えていたの」 美和子は言う。 「それと、会ってもらいたい人もいるのよ。今度、会ってくれないかな」 「誰?」 「会ってもらえれば、わかる。今度、紹介するから」 美和子は、詳しいことは話さないが、とりあえず、次の土曜日に二人で出かけることにした。 昭雄は、楽しみに、次の土曜日を待つ。
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