彼岸に入ると、墓地には墓参りをする人の姿が見られるようになった。飯田は、早朝から日が暮れるまで、墓地に登る坂道の下にある駐車場で、墓参りに来る人たちの顔を、注意して観察した。 飯田の手元には、耕三と佐知子の二人が写った写真がある。それは、佐知子の実家から借りて来たものだった。 仲の良さそうな二人である。結婚をしてから、十年を過ぎた頃に撮られた写真だということだった。 そして、待つこと三日。飯田はついに、門脇耕三らしき男が、花を持って駐車場を歩く姿を見かけた。飯田は車を降りる。 「ちょっと、すみません」 飯田は、男に声をかけた。 「門脇耕三さんでしょうか」 「そうですが」 耕三は足を止めて、飯田に答える。 耕三は、やはり年を取っている。頭には白髪が多く、顔にシワも多い。 「私は、探偵の飯田と申します。実は、耕三さんのお母様のご依頼で、耕三さんを探していました」 「母が私を? なぜですか?」 「耕三さんのお父様が、亡くなられてそうです。それで、耕三さんに、家に戻って欲しいということでした」 「そうですか」 耕三は、歩きだす。坂道を登り、墓場に入る。 佐知子のお墓は、墓場の中ほどにあった。 耕三は花を供え、手を合わせた。飯田も、その後ろで、手を合わせる。 「私が家を出た理由を、母から聞かれましたか」 「はい。お父様が、結婚に反対されたそうで」 「一言でいえば、その通りです。でも、他にも色々と複雑な事情がありまして」 「複雑な事情ですか」 「一々、他人に話すわけにもいきませんが、とにかく、私は、家には戻りませんので」 「わかりました。とりあえず、耕三さんが、現在、お住いの場所の住所と連絡先を教えてはもらえませんでしょうか。私の仕事はそれで終わります。後は、耕三さんと、お母様との二人の間の問題ですから」 飯田は、耕三が現在、住んでいる場所の住所と電話番号を手帳にメモした。飯田はそれを手に、車に戻った。
飯田が事務所に戻って来る。 「門脇耕三が住んでいる場所の住所と、電話番号だ」 飯田は広美に、手帳に書いたメモを見せる。 「これで、この仕事は終了だ。約束の報酬一千万は、振り込んでもらうのか。それとも小切手か」 「その辺の話は、私がします。これから、依頼者のところに行きますか」 飯田は、広美と一緒に門脇由美子のところに出かける。 博は一応、仕事の終了をパソコンに入力したが、本当に、これでいいのかと考えた。 できれば、親子を引き合わせてあげたいと思う。 しかし、一介の事務員として、余計なことはしない方がいいということもわかっていた。 博は淡々と、自分の仕事をこなして行くだけである。
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