飯田からの報告は、一日に一度、入って来る。それが、この探偵事務所の決まりでもあった。 調査は順調に進んでいるらしい。 名前の漢字は「花岡佐知子」だった。当時、彼女が住んでいた家は、今もまだ、石井町にあった。彼女の両親は、まだ健在で、その家に住んでいた。しかし、花岡佐知子は十年前にすでに病死をしていた。夫の耕三は、七年前までは、佐知子の両親と連絡を取っていたそうである。しかし、佐知子の死で縁の無くなった義理の両親とは、自然と疎遠になっていったようである。 当時、耕三が勤めていた会社もわかった。しかし、耕三は、現在はその会社には在籍をしていない。十年前に会社を辞めたそうである。それは、佐知子が病死したのと同じ時期のことだった。 耕三は、会社を辞めてから、忽然と姿を消す。そこからの調査は、難航したようだった。 必ず、どこかに手がかりはある。飯田は、そういう信念を持って調査を続けた。 一か月、二か月と、空しく時間は過ぎて行く。 飯田は事務所に調査の資料を持ち帰った。自分の机の上で資料をまとめながら、推理をしているようである。 「何か、わかりましたか」 博は、お茶を入れて、飯田に聞いた。 「いや。どこから手をつけたものか、悩んでいる」 「手がかりは、全くなしですか」 「全く、なしだ。恐らく、旅にでも出たのだろう」 「妻を亡くしたことに対する、傷心の旅でしょうか」 「普通に考えると、そうだろう。妻の佐知子との思い出の場所を巡ったりしたのだろうか」 「そうでしょうね。妻の佐知子さんのことを、余程、愛していたのでしょう」 「思い出の場所か……」 飯田は、頭に手をやり、天井を見る。頭の中を、色々と回転させているのだろう。 博は、ふと思いついた。 「花岡佐知子さんのお墓は、どこにあるのでしょう」 「墓は、石井町三丁目の山の麓の墓地にある。俺も一度、行ってみたよ」 「門脇耕三は、佐知子さんのお墓参りに現れるのではないでしょうか」 「それは、俺も考えている。だが、彼岸の墓参りは、来月だ。まだ、一か月はまたなければならない」 「それで、いいではありませんか。こうなったら、ゆっくり、待ちましょうよ」 「そうだな。ここは、その可能性にかけるか」 飯田はお茶を飲んだ。 「もう一つ、仕事を入れてくれても構わないよ。来月まで、手が空くだろうから」 「わかりました。そうしますよ」 博は自分の机に戻る。パソコンで、探偵たちのスケジュールを調べた。
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