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作品名:坊主と幽霊2 作者:三日月

最終回   1
 そこの交差点では、最近、事故が相次いでいる。
 原因はどれも、運転者の前方不注意だが、彼らは皆、一様に、
「道路の中に、立っている女性の姿を見た」
 と、証言していた。
 しかし、女性の姿を見たという証言をしたのは、運転者だけである。
「幽霊ではないか」
 という噂が立つのは、自然のことだった。

 その交差点に幽霊が出る理由もあった。
 今から約三か月前、この交差点で、若い女性がトラックにひき逃げをされ、死亡した。
 交差点に立っていたという女性の容姿は、ひき逃げをされた女性の容姿に似ていた。
 女性の名前は、片山美紀という。
 年齢は二十七歳。
会社に出勤する途中の事故だった。

 近頃、その交差点に、毎日、立っている男の姿があった。
 男は何をするでもなく、交差点の脇にある花壇のブロックに腰をかけ、周囲の風景を見つめていた。
 ある日、その男の前に、僧侶が現れた。
 僧侶は交差点に向かい、手を合わせると、低い声で何かを唱え始めた。
「やめてください」
 男は僧侶に声をかける。
 僧侶は口を閉じ、男を見た。
「何か」
 僧侶は言う。
「幽霊を成仏させるのは、やめてください。いや、成仏させるのは、もう少し、待ってもらえませんか」
「なぜですか」
「ここで死んだのは、僕の恋人です。幽霊が出るのなら、一目、会いたいと思っています」
「幽霊に会って、どうするつもりですか」
「どうもしません。もう一度だけ、彼女の姿を見たいんです」
「では、彼女に会わせてあげましょう。それで満足しなさい」
 僧侶は、男の額に指を当てる。
 男は一瞬、気を失い、その直後、目の前に幽霊が立った。
「美紀……」
 男はつぶやいた。
 淡く輝く幽霊が、男に微笑む。
「さようなら……」
 幽霊が、そうささやいたような気がした。
 幽霊はそのまま、男の目の前から消えて行った。

 それから、その交差点での事故は起こらなくなった。
 男は時折、その交差点に花を供えたということである。


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