退院をした木村は、その足で警察署に向かった。警察署で、上着と財布を返してもらう。刑事から少し取り調べを受けたが、たかが末端構成員の木村に、暴力団について話せることは何もない。拳銃については、何も話さなかった。警察の方でも、何も気づいていないようだった。 警察署を出た木村は、喧嘩の相手を探すことにした。顔はよく覚えている。この町で出会えば、絶対に一目でわかる自信はある。しかし、この町の中で、どこをどう探したものか考えた。手がかりがどこかにないだろうか。 喧嘩をした時の状況を思い出してみる。木村にも、喧嘩には自信があったが、あの時はあっけなく負けてしまった。あの男は、何か武道か格闘技の経験があるに違いないと思う。町にある空手道場や、ボクシングジムを歩いてみることにする。 三時間ほど歩いて見つけたボクシングジムで、幸運にも、木村はあの時の男を見つけた。窓から中を覗くと、あの男が、リングでシャドウボクシングをしていた。 木村は、ジムの中に入る。練習生たちが、木村を見たが、木村は構わずにリングに向かった。男に声をかける。 「おい」 男は、シャドウボクシングをやめ、木村を見た。 「俺のことを、覚えているか」 木村は言う。 「あの時の、ヤクザだろう。覚えている」 「ちょっと、話がある。外に出てくれないか」 「また、殴られたいのか」 「そうじゃない。話がしたい」 男は、リングを降りる。木村は、男と一緒にジムの外に出た。 木村はさっそく、本題に入る。 「俺から奪ったものを、返してもらえないか」 「奪ったもの? 知らないな」 「とぼけないでくれ。あれが無いと、困るんだ」 「何のことかわからない。帰ってくれ」 木村が何度頼んでも、男は、拳銃を奪ったことを認めなかった。木村は、最後には、土下座をして頼み込む。しかし、男は応じなかった。 「もう、いいだろう」 男はそう言うと、ジムの中に戻ろうとする。木村は、最後に声をかけた。 「あの拳銃を、どうするつもりだ」 「拳銃? さあね」 男は、最後まで、拳銃を奪ったことを認めなかった。 何か、思惑があるに違いないと、木村は思った。
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