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作品名:拳銃 作者:三日月

第9回   9
 退院をした木村は、その足で警察署に向かった。警察署で、上着と財布を返してもらう。刑事から少し取り調べを受けたが、たかが末端構成員の木村に、暴力団について話せることは何もない。拳銃については、何も話さなかった。警察の方でも、何も気づいていないようだった。
 警察署を出た木村は、喧嘩の相手を探すことにした。顔はよく覚えている。この町で出会えば、絶対に一目でわかる自信はある。しかし、この町の中で、どこをどう探したものか考えた。手がかりがどこかにないだろうか。
 喧嘩をした時の状況を思い出してみる。木村にも、喧嘩には自信があったが、あの時はあっけなく負けてしまった。あの男は、何か武道か格闘技の経験があるに違いないと思う。町にある空手道場や、ボクシングジムを歩いてみることにする。
 三時間ほど歩いて見つけたボクシングジムで、幸運にも、木村はあの時の男を見つけた。窓から中を覗くと、あの男が、リングでシャドウボクシングをしていた。
 木村は、ジムの中に入る。練習生たちが、木村を見たが、木村は構わずにリングに向かった。男に声をかける。
「おい」
 男は、シャドウボクシングをやめ、木村を見た。
「俺のことを、覚えているか」
 木村は言う。
「あの時の、ヤクザだろう。覚えている」
「ちょっと、話がある。外に出てくれないか」
「また、殴られたいのか」
「そうじゃない。話がしたい」
 男は、リングを降りる。木村は、男と一緒にジムの外に出た。
 木村はさっそく、本題に入る。
「俺から奪ったものを、返してもらえないか」
「奪ったもの? 知らないな」
「とぼけないでくれ。あれが無いと、困るんだ」
「何のことかわからない。帰ってくれ」
 木村が何度頼んでも、男は、拳銃を奪ったことを認めなかった。木村は、最後には、土下座をして頼み込む。しかし、男は応じなかった。
「もう、いいだろう」
 男はそう言うと、ジムの中に戻ろうとする。木村は、最後に声をかけた。
「あの拳銃を、どうするつもりだ」
「拳銃? さあね」
 男は、最後まで、拳銃を奪ったことを認めなかった。
 何か、思惑があるに違いないと、木村は思った。


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