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作品名:拳銃 作者:三日月

第8回   8
 大野組の末端構成員、木村始は、居酒屋での喧嘩の末、病院に運び込まれていた。中学生の頃からグレはじめ、高校を卒業後は、職を転々としたがどこも長続きはせず、二十一歳の時に、知り合いのツテで、暴力団に入った。しかし、思っていた場所とは違い、先輩にコキ使われ、まるで使用人のような毎日。溜まったうっぷんを晴らすため、居酒屋で暴れれば、この始末である。先輩からの叱責は、免れないだろう。また、事務所でボコボコにされるかもしれない。
 昨日、病院にまでついて来た刑事が、今日も病室に現れた。口の怪我の腫れは引き、今日は話すことができた。
「何か、無くなったものはないか」
 刑事は言う。
 無くなったものといえば、自分の着ていた上着がない。居酒屋に置いたままにしてしまったらしい。
「俺の上着が」
「それは、署で預かっている。明日には退院できるそうだから、署に取りに来い」
 警察署になど行きたくはないが、この場合、仕方がない。
「他に無くなったものはないか。目撃者からの情報では、喧嘩相手は、お前から何かを奪って逃げたということだが」
 何かを奪った? 木村は考える。何か、取られたものがあるのか。
「財布は」
「財布はある。上着の中に入っていた」
「他には……」
 木村は思い出した。そういえば、事務所から無断で持ち出した拳銃はどこに。
 拳銃もまた、上着のポケットに入れておいたはずである。
 まさか、あの拳銃を奪われたのでは。
 まさか、刑事にこのことを話せるわけがない。それよりもむしろ、事務所の先輩に知れることの方が不安である。後でどういう仕打ちを受けるかわからない。
「退院をしたら、署に来るように。ゆっくりと話を聞こう」
 刑事はそう言って帰って行った。しかし、木村には、頭に入っていない。
 何とか、拳銃を取り戻さなければならなかった。喧嘩相手のあの男を、どうしても探し出さなければいけないと思った。
 


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