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作品名:拳銃 作者:三日月

第7回   7
 居酒屋で若い男二人が喧嘩をしているという通報を受けて、太田と中村はパトカーで現場に向かった。居酒屋の前には、人だかりが出来ていた。太田と中村は、人だかりの後ろから、居酒屋の中に入る。
 店の中は、滅茶苦茶に荒らされていた。その中に、一人の男が、鼻と口から血を流して倒れていた。
「救急車は」
 太田は、店の端にいた店員に声をかける。
「呼びました。すぐに来ると思います」
 店員の一人が答える。
 倒れている男は一人で、喧嘩相手であるもう一人の当事者が見当たらない。
「喧嘩は、二人だという通報だったが」
 太田はまた店員に聞く。
「もう一人は、その人を殴り倒した直後に逃げました。多分、暴力団の組員じゃないかと思います」
 やはり、そうかと太田は思う。今、目の前に倒れている男も、一見、暴力団ふうだった。
 救急車が来て、隊員が男を担架に乗せ、救急車に運んだ。太田は中村を現場に残し、自分は救急車で病院に同行することにした。男に意識はあるが、口が腫れていて、喋ることは困難なようだった。
 救急車は、近くの病院に男を運んだ。男は、応急手当を受け、病室に運ばれた。太田は男に付き添う。
「喋ることはできるか」
 太田は男に聞いた。しかし、男は小さく首を振る。
「なら、俺の聞いたことに、首で返事をしてくれ。君は暴力団員か?」
 男は頷いた。
「君は細川組の組員か?」
 男は首を振る。
「なら、大野組の組員だな」
 男は頷いた。
「喧嘩相手は、同じ暴力団か?」
 男は首を振る。
「一般人か?」
 また、首を振った。
 どういうことだろうと、太田は思う。
「相手の身分を知らないということか」
 男は頷いた。
「相手の男とは、初対面か?」
 男は頷いた。
「喧嘩の原因は何だ? 君がふっかけたのか?」
 男に反応はない。と、いうことは、この男が喧嘩の原因を作ったのだろうと太田は思う。
「何か、身分を証明するものは持っていないのか」
 男は首を振った。
「君の身辺は、後で調べさせてもらう。店の修理代は、君が払うことになるだろう」
 男は首を振る。
「それとも、親分に払ってもらうか?」
 男はまた首を振った。
 どのみち、店の修理代は、この男が払うことになるだろう。兄貴分や仲間が助けてくれると思ったら大間違いである。今のヤクザには、人情も何もない。
「踏み倒そうなどと考えるなよ。その時は、俺が別件でも逮捕してやるからな」
 少し、脅してみる。この男はここに置いて、太田は、現場に戻ることにした。
 居酒屋では、中村が周辺情報の聞き込みをしていてくれた。逃走した喧嘩相手は、二十代半ばの若者で、長身で筋肉質な体格。見た感じは、スポーツマンのタイプらしい。
「店員や客の話によると、喧嘩を仕掛けたのは、病院に運ばれた男の方だったようです。しかし、あの男は見ての通り、かえってボコボコにやられてしまったというわけで」
「やっぱり、暴力団の関係者か?」
「それは、わからないということです。その男が、この店に来たのは、今日が初めてだったそうで」
「互いに、面識はなかったというわけか。突発的な喧嘩だな。ヤクザにはよくあること」
「しかし、一つ、気になることが」
「気になること?」
「逃走した男は、倒れた男から、何かを奪って行ったようだという目撃証言がありました。それが何なのかは、よくわからないということですが」
「財布か何か、か?」
「いいえ。倒れた男の財布は、ここに」
 中村は、黒い上着を手にして、ポケットから財布を取り出した。
 男は上着を店に残したまま、病院に運ばれたらしい。
 もう一度、病院に行って、話を聞く必要があるようだと太田は思った。



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