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作品名:拳銃 作者:三日月

第5回   5
 光太郎は、すぐにその場から逃げた。暴力団の組員が、応援にかけつけて来るのは明かであった。
 光太郎は、アパートの部屋に戻る。走って帰ったので息が切れていたが、水を飲んで気分を落ち着けた。
 部屋の中で、畳の上に座ると、急に恐怖感がこみ上げて来た。それは、暴力団に襲われるという恐怖ではない。人を撃ってしまったことに関する恐怖である。
 あの男は、死んだのだろうかと光太郎は思った。あまりにも、あっけない結末である。
 拳銃を持っていれば、撃ちたくなるのは、自然な感情である。それを人に向けるのは、最悪の場合だが、光太郎は、その一線を、あっさりと乗り越えた。
 次の日、光太郎は、朝からテレビのニュースに見入った。しかし、ニュースでは、昨日の事件のことは、何も報道をしていなかった。
 近くのコンビニで、数紙の新聞を買って来る。しかし、どの新聞の地方面にも、昨日の事件は載っていなかった。
 事件は、うやむやの中に消されてしまったらしい。もしかすると、自分は、対立する暴力団の一員と思われたのかもしれないと思う。二丁目にあるのは、大野組の組事務所だった。大野組は、細川組に、反撃を仕掛けるつもりだろうか。
 その日もまた、会社帰りに定食屋に寄る。
 恭子は、光太郎のことを心配していたようだった。
「昨日は、あれからどうしたの。うちの近所は、大変だったのよ」
「大変って?」
「発砲事件があったのよ。私も銃声を聞いた。川島くんが撃たれたのかと思って、驚いて、私も現場に戻ろうと思ったんだけど」
「戻ったの?」
「いえ、戻らなかった。悪いと思ったけど、やっぱり、怖くて」
「それが正解だ。危険なところには、近づかないのが一番」
「でも、本当に、無事でよかった。川島くんが撃たれたんじゃなかったのね」
 恭子は、真実を知らないようだった。わざわざ、教える必要もないと光太郎は思う。
 恭子の話によれば、暴力団の組員が一人、救急車で病院に運ばれたということである。幸いにも、死んだというわけではないらしい。
 警察も来たようだが、暴力団が被害届を出さなかったので、事件にはなっていないということだった。暴力団は暴力団で、警察の世話にはならないという変な意地があるのだろう。
 光太郎は、あの時、暗がりの中で顔は見られていないはずだった。身元がばれる心配はないだろう。
 もし自分のことを、細川組の関係者だと思っているのなら、面白いと光太郎は思った。
 暴力団同士が、互いのつぶし合いをすれば、そのうち、この町から暴力団はいなくなることだろう。


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