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作品名:拳銃 作者:三日月

第4回   4
 午後の九時、少し前に光太郎は部屋を出た。定食屋までの道を歩く。
 店の前まで来たところで、光太郎は、店の中に入ったものか、外で待ったものか迷った。
 しばらく考えた末に、光太郎は外で待つことにした。時折、腕時計を眺める。
 九時を過ぎても、恭子は店の中から出て来なかった。片付けでもあるのだろうと思う。
 九時十五分を過ぎた頃、恭子が、店の暖簾をしまうために、中から顔を出した。
「あ、本当に来てくれたの」
 恭子が、光太郎を見つけて言った。
 光太郎は、恭子の方に歩く。
「迷惑でしたか」
「いいえ、とんでもない。もうすぐ終わるから、待っていて」
 それから十分ほどして、恭子が店から出てきた。恭子は店の裏に自転車を置いてあった。
 恭子は自転車を押して歩く。光太郎は、その恭子に並んで歩いた。
「恭子さんの家はどこですか」
「二丁目よ。ここからだと、歩いても十分くらい」
「自転車で走った方が、早いみたいですね」
「いいのよ。たまには、こうやって誰かと帰るのも」
 恭子の個人的なことを聞くには、絶好の機会である。しかし、女性と話すことに慣れない光太郎は、何を話したものか、考えた。
「二丁目というと、公民館の近くに、暴力団の事務所があったよね。恭子さんの家も、その近くなの?」
「うん。近くといえば、近くかな。家ではなく、アパートだけど」
「一人暮らし?」
「うん、まあ」
「実家はどこなの」
「実家は、山梨にあるけど、両親とは、勘当状態なのよ、もう、五年近く、帰っていないかな」
「勘当って、どうしたの」
「ちょっと、結婚の時に、両親に大反対をされて、そのまま、家を飛び出したのよ。それから、勘当状態というわけ」
「結婚って、今、一人暮らしだと言ったよね」
「旦那には、逃げられたのよ。馬鹿でしょう。私って」
 そういう事情があったのかと光太郎は思う。触れていいことだったのかと思ったが、恭子は、明るく話していた。
 二丁目に入り、恭子の住んでいるアパートが近づく。しかし、恭子が、ふと足を止めた。
「どうしたの」
「あれ、見て」
 暗がりの中、目を凝らすと、前方に二人の人影が見える。
 暴力団か、と、光太郎は思った。
「道を変えようか」
 恭子は言った。
「そうだね、その方が無難かも」
 光太郎は言う。
 が、道を変えようとしたその時、
「ちょっと、待て」
 と、暴力団に声をかけられた。
 二人の男が、光太郎と恭子の方に歩いて来る。
「逃げた方がいい。自転車に乗って」
 光太郎は、恭子に促す。
「でも、川島くんは」
「僕のことは、気にしなくてもいいから」
 恭子は、自転車に乗って、別の道に走った。光太郎は、二人の男を待ちうける。
 男たちは、光太郎の前に立った。
「なぜ、逃げる」
 男が言った。普段は気の弱い光太郎だったが、今日は違う。
「それは、当然だ。チンピラに好んで関わる人間はいない」
「チンピラだと? お前、誰に向かって」
 男が、いきなり光太郎の首をつかむ。
 が、そこで、一発の銃声とともに、首をつかんだ男が地面に崩れ落ちた。
 光太郎は、拳銃をもう一人の男に構える。
「死にたくなければ、すぐにここから去れ。たかがチンピラが、威張るな」
 光太郎が言うと、その男はすぐに暗がりの中に消えて行った。



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