光太郎は新聞を取っていない。 新聞はいつも夕食を食べながら、定食屋で読むことにしていた。 その日もいつものように、定食を食べながら新聞を読む。その地方面の見出しには、 「暴力団射殺される」 と書かれていた。 近頃、この町では、暴力団の抗争が激しくなっていた。細川組と大野組が、この町の東と西で、縄張り争いをしている。 あの夜、光太郎にぶつかった男も、それを追いかけた二人の男も、暴力団の組員だろうと光太郎は思った。今、押入れの中に入れてある拳銃も、元は暴力団の所有物だったのに違いない。拳銃を所有することは法律違反だが、暴力団にそういうことは関係ない。 「いい迷惑よね」 突然、横から声がして、光太郎は驚いた。見ると、横から恭子ちゃんが新聞をのぞいていた。 「その事件、私の住んでいるアパートの近くであったのよ。銃声も聞こえたし、男の人の叫び声や、怒鳴り声も聞こえた」 「そうですか。危ないですね」 光太郎は答える。光太郎は恭子と、雑談をするのは初めてのことだった。 「警察もすぐに来たし、野次馬も多くて、夜、遅くまで騒々しかった」 「恭子さんも、見に行ったのですか」 「私は、部屋の窓から見ていただけ。だって、怖いから」 「それがいいですよ。夜に外に出るのは危険です」 「でも、このお店が終わるのは九時だから、それから部屋に帰らないといけないの。ちょっと、怖いかな」 「よければ、僕が送ってあげようか」 と、光太郎は言ってみる。 「本当? そうしてもらえると、心強い」 恭子は、意外にも、光太郎の申し出を受け入れた。 「だったら、九時頃、店に迎えに来ますよ。待っていてください」 光太郎は、定食を食べ終えると、うかれて店を出た。 これまで女性にもてたことのない光太郎にとって、女性の相手を務めるのは初めてのことだった。うかれるのも、無理はない。
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