光太郎は、拳銃を上着に隠して、部屋を出た。 拳銃を処分しようと思うが、どこに捨てようかと考える。 下手にどこかに捨てて、他人に拾われるのも、まずい。 犯罪に使われたりでもしたら、自分の本意ではない。 警察に届けるのが一番だろうが、今更、警察に差し出すのは、変な疑いを持たれそうな気がした。 もちろん、自分は暴力団員に向けて一度、発砲をしている。 それは事件になってはいないが、あれは、相手が暴力団員であるということで、自分に正当性があるような気もしていた。 光太郎が、町を歩いていると、突然、男に体をつかまれた。 「大人しくしろ。勝手に動くな」 男は言った。光太郎の背中に、何か、固いものが当てられる。 光太郎が後ろに目をやると、それは拳銃だった。 男は、暴力団には見えない。 もしや、あの女性を射殺した犯人か、と、光太郎は思った。 「待つんだ、北川」 別の男の声が聞こえた。 「その人を放せ」 男は言う。その男は警察関係者か、と、光太郎は思う。 不思議と、光太郎は背中に当てられた拳銃に恐怖を感じなかった。 それは、自分の上着の下に、もう一丁の拳銃があるからに違いない。
太田は、人質を取った北川を前にして足を止めた。 北川の手には、人質に当てられた拳銃が見えた。 やはり、北川が犯人か、と、太田は思う。 このまま、応援が来るのを待つのが無難だが、これ以上、北川に罪を重ねさせるわけにもいかない。 北川はじりじりと、人質と一緒に川を背にした。 コンクリートで固められた町の中の川が、彼らの後に流れている。 応援は、意外と早く到着した。 パトカーのサイレンの音が、近くに聞こえはじめる。 「もう逃げられないぞ。北川、どうするつもりだ」 太田は言った。 その時、一発の銃声がした。 「北川!」 と、思わず、太田は北川に向かって走った。 しかし、倒れたのは、人質ではなく、北川の方だった。
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