木村の肩を叩いたのは太田である。 太田は北川信也の行動を探っている最中だった。 ボクシングジムの前をうろついている木村を見て、太田は意外に思った。 「何をしている」 「刑事さんこそ、どうしてここに」 「聞いているのは、こっちだ。質問に答えろ」 「ちょっと……。まあ……」 木村は、言葉を濁す。何かを隠しているのは、明かであった。 「何なら、何日か、署に泊まってもらおうか」 太田は、少し、脅してみる。木村は逃げようとしたが、太田は、その腕をつかんだ。 「余程、知られたくないことらしいな。それなら、こっちにも、聞き甲斐があるというものだ」 太田は、木村を、近くに置いてあった車の中に連れて行った。 木村を助手席に座らせ、太田は運転席に乗り込む。 「警察に連れて行くつもりですか」 「それは、お前の態度次第だ。正直に話をするかどうか」 太田は、手錠を、ダッシュボードの中から取り出し、木村の前に見せる。 木村は、観念したようだった。 「実は、この間の喧嘩の相手が、あのボクシングジムに通っているんです。それで、取られたものを返してもらおうと」 「やはり、何かを取られていたのか。それは、何だ」 「それは……」 「まさか、拳銃ではないだろうな」 太田は、カマをかけてみる。すると、木村の動揺が、一目で読みとれた。 「相手は、どんな男だ」 「見れば、わかります」 「じゃ、ジムの前で、来るのを待つか」 意外にも、二つの事件がつながりそうである。木村から拳銃を奪ったのは、北川信也に違いない。 午後の五時を回り、北川信也が自転車で姿を現した。 「あの男か」 と、太田は物影から、木村に聞いた。 「はい。そうです」 と、木村は頷く。 「よし、お前はもう帰れ。ここから先は、警察の仕事だ」 「何をするつもりですか」 「お前には、もう関係ない。捕まりたくなければ、この事件には係わらないことだ」 太田は、木村を目の前から遠ざけた。 そして、応援に中村を呼ぶことにした。
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