木村が組の事務所に戻ると、思った通り、なくなった拳銃のことで大騒ぎをしていた。木村はこのまま黙っていたものかどうか迷ったが、後でわかると、仕打ちがもっとひどくなるのは明かであった。 「実は……」 と、木村は、兄貴分の飯田に白状する。 「馬鹿野郎」 と、木村は飯田に数発殴られ、床に倒れた。 「何としても、取り返して来い。それまで、ここには帰って来るな」 木村は、事務所を追い出される。 木村は、町の中をぶらぶらと歩いた。 あの男から、どうやって拳銃を取り戻せばいいのか。 喧嘩では、絶対に敵わない。脅しなども、効かないだろう。 とりあえず、木村は、あの男の周囲を、つかず、離れず、監視した。 どこかに隙がないか、探ってみる。 拳銃は、どこに隠してあるのだろう。 男のアパートの前にいると、男が部屋から出て行くのが見えた。ここ何日か、生活パターンを見ているので、これから仕事に出かけるところだというのはわかった。 拳銃は部屋の中にあるのだろうか。 木村は玄関に回り、ドアノブに手をかけた。 手前に引いてみるが、やはり、鍵はかかっている。 次に、裏庭の方に回ってみた。 窓に手をかけてみる。 意外にも、鍵はかかっていなかった。 窓は、スルスルと、音を立てずに開いた。 木村は、靴を脱ぐと、部屋の中に入った。すぐに部屋の中を物色する。 押入れの中、棚の引き出しの中、タンスの中、机の中。 拳銃を隠せそうな場所は、片端から、探してみる。 しかし、どこにも、拳銃は無かった。 まるで、空き巣のようだと木村は思う。暴力団の組員にはなったものの、まさか、このようなことをしなければならないとは思わなかった。 部屋の中は荒らさないように注意したので、男が帰って来て部屋を見ても、侵入者には気がつかないだろう。 木村は部屋を出る。 男が仕事を終える時間は、午後の五時である。男はそれから、ボクシングジムに向かうはずだった。 もしかすると、ジムの方に拳銃を隠しているのかと思う。 木村は、ボクシングジムに向かった。 ジムの前まで歩いて来たが、どうやって中に入ろうかと考える。 ジムの前をうろうろと歩いていたところ、突然、後ろから肩を叩かれた。 振り向くと、そこにいたのは、以前の刑事だった。 「何をしている」 刑事は言った。木村は驚く。 「刑事さんこそ、どうしてここに」 「聞いているのは、こっちだ。質問に答えろ」 木村は、どう答えるべきか迷った。 まさか、拳銃を探しているとは、刑事を前にして言えなかった。
|
|