五人の男の所在を、一人ずつ探し出し、事件当時のアリバイを聞いた。太田と中村の捜査の結果、アリバイのない男が一人いた。 男の名前は北川信也。年齢は二十七歳である。井川一美とは今年の始めに知り合い、二か月ほど交際をしたということだった。 事件当日は、部屋で寝ていたということである。もちろん、それを証明する人はいない。 北川信也の周辺を調査してみる。彼はいわゆるフリーターで、現在は、宅配会社の倉庫でアルバイトをしていた。 同じ倉庫で働いているアルバイト仲間から話を聞いてみる。 「ここのバイト仲間で、北川くんと親しくしていた人は、あまりいないんじゃないかな。彼はあまり喋らなくて、取っ付きにくい人だったから」 一人の女性アルバイトは言った。 「彼は、ボクシングジムに通っているそうだから、そちらの方で話を聞いてみればどうでしょう」 と、彼女は付け加えた。 太田と中村は、ボクシングジムを探して、そこに行ってみる。 ジムの会長に話を聞いた。 「北川は、真面目な男ですよ。熱心に練習に取り組んでいます。まさか、彼が事件を起こすなんて、考えられません」 「北川くんと親しかった練習生はいますか」 太田は聞く。 「今はもう、ジムを辞めてしまいましたが、片山という男と親しくしていました。彼の住んでいるところの住所を教えましょうか」 「お願いします」 太田は住所をメモする。 太田と中村は、ジムを出ると、住所の場所に向かった。 そこにあったのは古いアパートである。その二階の三号室が、片山の住んでいる場所だった。 「こんにちは」 と声をかける。片山は、部屋の中にいた。 「警察の者ですが」 と、太田は片山に警察手帳を見せる。 「君の友達の、北川信也について、話を聞きたい」 太田がそう言うと、片山は太田と中村を部屋の中に入れた。 「北川くんは、井川一美という女性と交際をしていたようですね。知っていますか」 「はい」 「井川一美が殺されたことは知っていますよね」 「はい」 「北川くんが、彼女に恨みを持っていたということはありませんか」 「北川が犯人だということですか?」 「それは、まだわかりません。ですから、こうやって、話を聞いているんです」 「北川に聞いてください。僕は何も知りません」 「何か知っているのなら、話してください。もし、何か重要なことを隠していれば、後で罪に問われるかもしれませんよ」 太田は強く、片山に迫る。 すると、しばらく片山は黙っていたが、ついに、話をしてくれた。 「恨みを持っていたのは、確かだと思います。北川は、彼女に振られただけでなく、かなりのお金をだまし取られたようですから」 「詐欺にあったということですか」 「それは、どうでしょう。北川は、彼女のことが好きでしたから、その時はすすんでお金を渡したのだと思います」 「それで、振られた後に、恨みを持ったというわけですか」 「そうだと思います」 太田と中村は、片山にお礼を言って部屋を出た。 「動機は十分だな」 太田は中村に言う。 「ですが、別に、片山が隠していたところで罪には問われないでしょう」 「嘘も方便といったところだ。真実がわかれば、それでいい」 太田と中村は車に乗る。 次は、北川信也の行動を監視する番だった。
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