事件現場の周辺地域を、かなり広範囲に聞き込みをしてみたが、犯人の目撃情報は全くなかった。 「暴力団の仕業でしょうか」 中村は言う。 「暴力団員が犯人ならば、何か、意味があるはずだ。彼らは、全く無意味なことはしないと思う」 太田は言う。 「被害者が、何か、裏の仕事に関わっていたとか」 「それは、わからない。とりあえず、被害者の周辺を探ってみるか」 太田と中村は、井川一美の周辺に何か異常はないか、聞き込みを開始した。 彼女は、両親と一軒家に暮らしていた。姉がいるらしいが、姉は結婚をして、家を出ているようである。両親の話によると、一美の生活には、特に変わったことはないということだった。一美は、地元の銀行に勤めていたそうである。太田と中村はその銀行でも彼女と仲が良かったという同僚に聞き込みをした。 銀行の中で、一美と一番仲が良かったのは、田村栄子という女性だった。一美とは同期の入社で、それ以来の友達だということだった。 「一美さんに、最近、何か変わったところはありませんでしたか」 太田は栄子に聞く。 「変わったところというのは、特にありませんが」 「誰かに、恨みを買うようなところはありませんでしたか」 「恨みですか。それは、心当たりがないわけではありませんけど」 栄子は、言葉を濁す。 「心当たりがあるのなら、教えてください。事件に関係があるかもしれませんので」 太田は、さらに深く聞く。 「実は、一美は、惚れっぽく、飽きやすいタイプの女性でして、私が知っているだけでも入社をしてからこの三年で、五人くらいの男と付き合っています。彼女に振られて、恨みを持っている男性もいるのかもしれません」 「なるほど。では、一美さんと付き合っていたという男性の名前はわかりますか」 「何人かは、わかります。もしかすると、全員ではないかもわかりませんが」 「それで、構いませんから、教えてください」 太田は、栄子の挙げる男性の名前をメモした。 一人ずつ、聞き込みをしてみるつもりである。
|
|