変わっていくものと変わらないもの
幼いってことがその頃の僕にはわからなかった・・・
なんでこんなところに向かってるんだろう。
屋上に続く階段を登りながら僕はため息をついた。 今日何度目のため息だろうか、いつもはとりとめて考えないことまで考えてしまう。今から起こる事への逃避だろうか?
逃避するなら今だっ!
そう思っていても僕はただただ階段を一歩一歩登って行く。
ホントなんでこんなことになったのか・・・
いつも一緒だった。
帰り道はいつも楽しくて、それが楽しみで毎日学校に通っていたと言ってもいい
その後はいつもの集合場所に行ってまた遊ぶ
たまには近所の公園でサッカーをしたり、雪が降ると雪玉で野球をした
それが日常だった
彼が変わったのは中学校に上がってから。
少しのカルチャーショックと魅力的な生活への憧れと不安。それを抱いて僕は少し大人になった気分にひたり、学校へ続く上り坂をひたすら登っていた。 背伸びしたり、子供ぶったり、恋したり、悩んだりして僕らは大人へと変化していくのだとまだまだ子供の自分は考えていたし、彼もまたそうだと思っていた。
変化は誰にも訪れることを知ってはいたつもりだったけど、その認識が当時の僕には欠けていた気がする。
僕はサッカー部に入った。
彼は今日もいつもの仲間とダベっている。僕はそれを遠巻きに見ていた。 彼の周りにいるのは、どっちかゆうと近寄りがたく、模範沿った学生とは少し違う。端的に言えば不良だ。 彼もその“グループ”の一員だった。
僕は同じ部活の仲間とつるむようになり彼とは少し距離が出来ていた。疎遠とは言いすぎだが、すでに今までの関係には戻れない。そんな気はしていた。
3年生の秋
僕は掃除を終え、自分の教室に戻る。 外の掃除はこの季節になるとだんだんと嫌になってくる。寒いから
そんなわけで掃除をちゃっちゃと片付けて教室に戻って来たけど、かなり掃除時間は余っていた。これならサボってもよかったかな・・・ 教室内は時期が時期であるためか、少しぴりぴりした雰囲気が漂う教室に入り自分の席に着こうと思った。
彼らは僕の机の周りにいた。
教室の一角を占領状態で談笑している。
・・・座れないじゃないか
3年も経てば色々変わる 彼は持ち前の行動力と押しの強さでよく言うと学校では目立つ存在、世間的言えば問題児と言われる人物と見なされていた。そして当然の如く彼はその“グループ“のリーダー格になっていた。 多分、僕も心の中では少なからずそう思っていたのではないだろうか。 それだからかもしれない、あんな言動をとったのは
「ちょっとそこ邪魔なんだけど」
僕はあえて冷たく彼ら、正確には彼に言った
「あぁあん? 少し待てや」
彼は話の途中だったせいか、こっちを見ずに仲間同士で笑いながら話続けていた。
「・・・・・・」
僕はおとなしく彼を見つめながらその場で少し静観をすることにした。
昔の彼はよく気づくやつだった。どんなに自分が目立っていても彼は下の人もちゃんと見ている。そんなやつだったから僕は好きだった。 他人の悩みを聞くのが趣味みたいなやつだったから誰からも信頼されてたし だからだろうか、僕は彼が今は少しお互いの立場は違うけどそこは変わってないとどこかで期待してたんだ。
数分後、、彼らはまだ談笑を続けている
僕は
「俺の話聞いてた?」
そう聞いた。彼は
「うっせぇな!」
とだけ言い放った。
僕は小さな期待をどこか壊された気がしたんだ
だから
「これだから頭の悪いのは困る」
そう。言った。
「おい、お前なんて言った」
やっと彼はこっちを向いた。どことなくやり場のない感情が溢れ出しそうな感じに見える彼は口調を変えて言い返してきた。
「一回聞いてわかんない?」
「じゃあさ。お前とりあえず謝れや」
「謝る理由がないし。俺がなんか間違ったこと言った?」
「・・・」
彼は僕の胸倉を掴み寄り僕を睨んだ。 僕は少し驚いた。いつもの彼じゃないと思った。いや、僕がゆういつものは過去の彼なのかもしれない。 だから敢えて言ってやった。
「俺は自分が間違ったことはしてないと思っている。だから謝りはしない」
逆に睨み返す
「あぁあん」
ガタッと机を蹴り、彼は僕を掴んだまま壁に打ち付けた。 僕は彼から目を離すのを止めない。
睨み合う両者に教室教室は少し騒然としていた。人が少ないのは幸いなのかどうなのか・・・
ガラッ
教室のドアの開く。 もうHRの時間らしい。そこには担任の姿があった
それを見た彼は僕を離し、仲間と一緒に教室から出て行った。 去り際に彼は
「おい、後で屋上に来いや」
それだけ言って出ていった。
屋上でなにがあるのかはだいたい予想はついていた。だから行かない選択肢も出来たけど、僕は階段を登る。痛いのは嫌だし、暴力に訴えるのは弱者のすることだと思っていた。だって彼は
HRは憂鬱だった。担任の話は全て上の空状態。周りの生徒の喧騒も耳に入らなかった。
なんでこうなったんだろう。
そればかり考えていた。 それでも自分は間違えていない。 それだけで十分だと思ってた。
屋上の扉を開ける。 彼らと彼はそこにいた。
「構えろや」
彼はそう言ったが、あんまりこんゆう経験の無い僕にはよく分からなかったが、とろあえず構える振りだけして、彼の正面に立つ。
動く。
思ったときには彼は僕の目の前で拳を振り上げていた 僕は咄嗟に身構える。身構えるとは言いようで、ただうずくまったに近い体勢でそれを耐える。
僕は何とかしなければならないと思いつつも彼を殴るなんてこと出来そうにない。そう感じた。 ただうずくまって彼の蹴りやパンチを防ぐのに精一杯だった。
人を殴るのが恐かったのかもしれない。幼い頃はそんなことに罪悪感を覚えるなんてことはなかったのに・・・これも大人になったってことなんだろうか そんなこと言ってる場合じゃないのは分かっていてもこれだけは譲れない自分の信条だ。
「ほら!たてよっ!」
僕はよろめき立ち上がり、、、彼に向かって一歩踏み込んだ
彼はそんな僕を容赦なく殴り飛ばす。
思いのほか痛くない。でも、凄く、胸が苦しかった。
殴られた反動で僕は転がるように倒れた。 先日の雨が少し残った屋上は湿っていて気持ち悪い。
僕はまた立ち上がる。
どうして僕は屋上で喧嘩なんかしてるの?
なんで彼と喧嘩してるの?
どうしてこんな痛い思いを僕がしなくちゃいけないの?
なんで彼はこんなこと望んだの?
どうして僕はここに立っているの?
なんで・・・?
僕は駆け出した。 彼の懐に飛び込み体当たりに近い格好で飛びつく。 彼は一瞬動揺したようだが、すぐにしがみついた僕の脇腹を殴り僕を引き剥がそうとする。 僕はそれでも彼を離さない。 彼は無理矢理僕を引き離す。
何度も何度も僕は彼に捕まり、離さないようにしがみつく。
屋上での彼の目はどこか感情を抑えているようで、僕はそれがたまらなく悲しかったんだ・・・
僕はまた立ち上がり彼に向かって駆けた。 彼は身構える直後、僕は彼の半身に身体を入れ、片足で大きく踏み出し彼の顎の下から手を入れそのまま移動力を利用して彼の上体をぶれさせ、そしてもう片足でその彼の支軸の足を払い上げた 。
倒れこむようにして彼を倒しマウントをとる。
僕は拳を振り上げた。
僕は・・・殴れなかった・・・
彼はそのまま立ち上がる。 その目はやっぱり悲しそうだった。
バタンッ!
扉の開く音。
「ヤバイって!先生が来るぞ!!」
クラスのやつがそう言って屋上に入ってくるなりそう言った。
一目散と言う表現がこれほどあってると思ったことはない。 屋上にいたみんなは直ぐに屋上の扉にから校舎に逃げるように入っていった。もちろん彼も
僕は少し足を挫いたのか思うように歩けなかったので友人に肩を借りて屋上から退散した。
「おまえはスゲーよ」
友人は言う。
「でも、負けちゃったけどねw」
「よく、泣かなかったなw」
「馬鹿にしてんのかww」
「いやさ。あいつ、お前の友達じゃん」
「・・・」
「つらいよな」
その言葉が胸に響く
「アハハハ 凄く。痛かった」
僕は泣いていた。
後日。このことについて教師各々に僕らは呼ばれた。『君達の為にならないからホントのこと言ってくれ』とか言ってたけど、僕らは申し合わせたように「「なんでもありません」」その一点張りで張り倒した。 もちろん当日も帰宅後に親に顔の痣についてとやかく言われたが、「喧嘩してきた」とだけ言ったらなんとかなった。
教師の説教からやっと開放され指導室から出るとき彼は僕にこう言った。
「俺たちさ・・・友達だよな」
僕はキッパリと言ってやった。
「友達なら友達なんか殴らねーよw」
「・・・でも、友達、、だと思う」
彼は苦笑ともつかぬ笑いをしていた。その顔はどこか昔見たような記憶のある彼の顔だった。
たまの休みになると彼は僕を呼び出しドライブに誘う。
別々の高校に進学後、僕はそのまま県内の大学に通い。彼は高校卒業後に就職して今では立派な社会人だ。 腐れ縁もここまでくればたいしたものと彼は言ってたけど僕は馬が合うんじゃないかと思うよ。などと言い、二人で深夜の車道を猛スピードで駆けて抜けて行く。
|
|