今年もこの季節がきた。
暑い暑い、気が狂いそうなくらい暑い夏が
妹が死んだ夏が−・・・
「さ〜と〜し〜、いい加減に起きなさ〜い!!!」 ピピピピピ。部屋全体に響き渡る目覚ましの音。それに答えるかのように廊下から聞こえてくる声に、聡(サトシ)はうっすらと目を覚ました。 「う〜〜ん」 布団の中でひと伸びし布団から出た聡は、学校の制服に着替え仕度をすますと、急いで居間へ向かったのだった。
「おっはよう、おばさん!」 「はい、おはよう。あっ、今日の卵は何がいい?」 「う〜ん、じゃあめだま焼きで」 「了解!」
ここ数年、変わらない毎朝の風景。叔母と甥の二人の生活・・・ 確かに、実の父親と母親、そして兄弟たちに囲まれた「普通の幸せな家庭」であるとは言えないが、聡はこれはこれで十分幸せであった。毎朝、おはようと言える相手がいて、温かいご飯が用意されており、なおかつ共に食す相手がいることがどれだけ幸せなことかを、聡は十分理解していたからだ。
「ほら、できたよ」 「おっ、今日もうまそう!おばさん、ありがとうな」 「よし、じゃあいただきましょうか」 「うん、いっただきまーす」
聡は、まだ湯気の立っている焼きたてのパンに、まずかじりついた。そしてリクエストのめだま焼きへと箸をのばした。
「やっぱ、おばさんの作るめだま焼きは、半熟具合が最高だね!」 「ぷっ・・・お褒めにあずかり嬉しいことですわって、忘れるとこだった」
ふっと食卓の椅子から立ち上がると、叔母は洗濯しおえた洋服がたたんで置かれているところへ向かっていった。そして、その中からアイロンがけまでされた一枚のハンカチを取り出し、聡のもとへもってきたのだった。
「はい、これ」 「あっ−・・・」 「借り物なんでしょう?今日会ったら、ハンカチを貸してくれたことのお礼、ちゃんと言うのよ。あっ、もちろん昨日助けてくれたお礼も言うのよ」 「あ、あぁ、わかってるよ。・・・・・・血の染みもとれてる。ありがとう、おばさん」 「私へのお礼はいいから、そのハンカチの子にお礼忘れないのよ」 「うん!」
そんなやり取りを終え、聡は朝ごはんを食べ終えるとすぐに学校へと向かったのだった。制服のポケットに、借り物のハンカチをしっかりといれて・・・
いつもと同じように、いつもと何も変わらない朝の風景。 たくさんの同じ制服を着た子達がいる中、たった一人、聡だけが誰とも挨拶もせずに、ただ学校へと続く道を走りぬけていく風景。
そんな聡の姿をマンションのベランダから見ていた叔母は、願わずにはいられなかった。
「どうか、聡に友だちができますように…」と・・・
|
|