病室の窓から見える景色が徐々に白み、ようやく長い夜が終わりを告げた。 「朝、か。じっとこうしているのも疲れるな。第一寝返りができない。背中が痛くてたまらない。 沙織、背中をマッサージしてくれ。」 さっきまでの優しさは影を潜め、匠は身体を少し傾けフッと息を吐いた。言われたとおり背中を揉んでいると、看護師が朝の検温です、と入ってきた。 「あらあら。朝から見せつけてくれるわね。気になってたんだけど、この方は周防さんのお身内の方なの?」 「え、ええ。まぁ。」 「周防さんて高校生よね?外見といい、話し方とかとてもそうは見えないけど。てことは、結婚しているはずないでしょうから。妹さん?お姉さん?なわけないわよねぇ。」 おしゃべり好きなその看護師は、脈を取り、血圧を測って尿量をみた。最後に体温計を見て、 「おしっこの管はあとで先生が回診したときに外しますからね。」 と、匠たちが口を挟む隙を与えず、一方的にしゃべって出て行った。 「朝からうるさい看護師だ。妹?姉?どう見たってきょうだいには見えないだろう。 おい。」 一時、マッサージを中断していた沙織だが、匠の声に再び背後に回り背中を揉み始めた。 「おかしいわよね。でも本当のところ、あの人に私たちはどう見えたのかしら。」 心持弾んだ声に匠は首だけを回し、不審な目を向けた。 「やけに楽しそうだな。」 「え?そ、そんなことないわ。あなたの思い過ごしよ。」そうは言っても口元がほころぶ。 「そうだとしたら、私が楽しそうに見えるのだとしたら、それはきっとあなたが私に自分の夢を話してくれたことよ。今までそんなこと一度だってなかったわ。それに・・・私はあなたにとって必要とされる存在だと言ってもらえた事が何より嬉しいの。女性としてみてくれた事が嬉しい・・・の。」 語尾は涙で詰まってしまい、殆ど聞き取れないほどだ。匠はチッと舌打ちして「またか。」と呟いた。 「そんなことくらいで泣くな。朝から辛気臭くてうんざりする。ブスが顔が余計ブスになる。 それよりも何時になった。」 匠の問いに沙織は掛け時計を見た。 「6時半 よ。」なかなか止まらない涙は沙織の美しい声をも邪魔していた。
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