眉ひとつ、表情ひとつ変えず歯の浮くようなセリフを言ってのける匠に、沙織の身体は硬直した。なに?今、匠さんは何て言ったの?その文字ばかりが目の前を何度も交差する。何の反応も示さない沙織に匠はそのまま続けた。 「以前、オレは秀一氏からの申し出を断った。やりたいことがあるから。と言った。それはまだ得宗グループが着手していない領域だとも言った。だがそれはウソだ。オレは技術者になりたいんだ。それも産業用のロボットを開発する設計技師だ。ロボットといっても人間の体をしたものばかりではない。人の入れないところへ踏み込み救助をしたり、人の身体の中に入って治療する、というものだ。グループが着手していないと言ったら秀一氏はすぐ食指を伸ばした。しかし得宗グループはその方面で既にある種の功績を残している。経営者として入るのではなく、1技術者として生きたい。それがオレの夢だ・・・しかし・・今の状況では無理だということはわかっている。たとえおまえとの話がなくとも周防建設を背負わなくてはならない。どちらに転んでも技術者というのは許されないだろうと思う。叶いそうで叶わないのがオレの夢だ。」 子供の頃から望んだものは全て手に入り、同級生からは憧れの的だった匠にも手に入らないものがあったのだ。沙織は電灯に映し出された青白い匠の顔を見た。 「だから、おまえの夢はくだらないと言ったんだ。でも、まぁ、仕方がない。おまえだからな。オレたちのどちらかの夢が叶えばそれでいいのかもしれない。たとえおまえの、く、だ、ら、ん、夢でもな。」 そう言って沙織を見た匠の目には穏やかな笑みがにじんでいた。
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