「・・・沙織。」 「はい。」 顔を上げると匠がじっとこちらを見ている。いまさらではあるが、沙織の頬がほんのりと紅くなった。見つめられ恥ずかしそうにうつむいた。 「おまえの。夢は何だ。」 突然思ってもみなかった問いに、沙織の頭は真っ白になった。 「え?」聞き返すのが精一杯だ。 「夢だ。将来、何がしたい。こうなりたいとか。そういう希望だ。」 「夢・・・私は、私の夢はあの日に決まったの。あの日以来、一度だって変わっていないわ。」 「あの日? なんのことだかわからないな。はっきり言え。何をいつ、どう決心したんだ。」口調は変わらないが声のトーンが下がる。 「あなたが、私をくれと榊原さんに言ったときから私の夢は決まったの。・・・あなたのお嫁さんになることが私の夢よ。」 今度は沙織が見つめる番だった。その視線をしっかり受け止めた匠だったが・・・ 「くだらんな。おまえの生涯をかけた夢はそんなことか。」 あっさりと却下されてしまった。 「くだらない・・・」呆然と見つめる沙織。 「ああ、くだらん。そんなことおまえの親父が望めばいとも簡単に叶うじゃないか。そんなものは夢とはいわない。」 半ば軽蔑した言い方に沙織は傷ついた。 「・・かた、かたちだけなら、そうかもしれない。けれど、あなたの心まで従わせることはできないわ。」 「心?気持ちの問題か。じゃ、聞くが、具体的にどうすればおまえの言う夢が叶ったことになるんだ。」 「どう、って・・そんなこと、私の口から言えないわ。」真っ赤になって下を向く。 「なぜ言えない。今、言わないとこの先チャンスはないと思え。それでもいいなら勝手にするんだな。ただ、これだけは言っておく。オレはおまえがいないと生きていけない。おまえが誘拐された時、身体が引き裂かれる想いというものを味わった。あんな想いは二度としたくない。これがオレの本音だ。」
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