彼らと入れ違いにパーティを終えた匠の両親、秀一、沙織、榊原夫妻が息せき切って駆け込んできた。秀一の顔が目に入った途端、沢木の思考回路が目まぐるしく回転し始めた。手術室の前まで彼らを導くと、ちょうど麻酔から醒めた匠がストレッチャーに乗せられ手術室から出てきた。しかし完全に覚醒したわけではないようで、瞼も半開しかしていない。いち早く駆け寄ったのは沙織と明子の女性陣。何度も匠の名を呼び、そのまま付き添って病室へ向かった。男性陣は沢木から説明を聞きながらその後を追った。 「ということは匠は大丈夫なんですか?」説明から内容がよく飲み込めない正彦が口火を切った。 「はい。骨折の程度はわかりませんが、何もなければ1週間程度で退院可能だそうです。」 一度言ったことを面倒くさがらず沢木は答えたが、その目じりで秀一の不快は表情を捉えていた。秀一は復唱すること、されることを好まないのだ。それでも沢木は続けた。一般人に秀一の感覚は理解できないだろうと思いつつ。 「そう・・・ですか。」 正彦のひどくがっかりした様子に榊原が慰めの言葉をかけた。その榊原も疲れた顔をしている。連日パーティの準備に終われ、いざ当日になってこのような事態が生じたのだから無理もない。倒れなければいいが、と沢木は思った。 「会長。パーティの方は滞りなく進行されたのですか?」 「多少のミスはあったが、榊原にしては良くやった方だった。」 沢木の質問に秀一は無表情で答えた。しかし滅多に榊原を褒めた事のない秀一にしては最大の賛辞である。2人はお互い顔を見合わせた。
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