「剣道部副主将の佐々木です。すみませんがちょっと。」佐々木は沢木を生徒達から離れた所へ誘った。 「実は。」と一呼吸置いてから、 「練習中に勢い余った部員たちがぶつかって、さっきの子がたまたま近くにいた周防に身体ごと倒れたんです。それで周防が下敷きになって。それで普通ではありえないことなんですけど、あの子の竹刀が折れて周防の左腕に突き刺さってしまって・・・すみません!オレ達の不注意でこんなことになってしまって・・」 佐々木は責任を感じているのか憔悴しきっている。半ば泣いているようにも見える。沢木は彼の肩にそっと手を置いた。 「大丈夫だ。きみが気にする事はないよ。不可抗力だったんだからね。それで、先生は何と言ったんだい?」 それに対し、佐々木はポケットからメモを取り出し読んだ。 「左ゼンワントウコツ?・・シャッコツ?・・カイホウコッセツと左ソクフクブザショウ?と言われました。コッセツしているから緊急で手術しなければならないってことで。それで。」 「誰の許可も得ないで手術に入ったのか?」 「周防がそれでいいって聞かなかったっス。」佐々木の半泣きが本格的になってきた。 「うーん。」 沢木も唸ったきり黙るほかはない。匠の性格なら当然そうするだろう。それにしても。と沢木は集まっている生徒たちをゆっくり見回した。沢木が到着したときより明らかに人数が増えている。だがここは病院であり手術室の前である。こう大勢の人間がいては迷惑千万であろう。彼は敏腕秘書の腕前を存分に発揮し、彼らのうち2、3人だけを残し、あとは帰るよう諭した。協議の結果、佐々木とマネージャーの山本、それにケガを負わせ今大泣きしている千葉由美子、彼女の介添えとして安西という女性徒の4人が残る事になった。残りの生徒は匠を気にしながらも異論を唱えることなく病院を後にした。沢木もまた、榊原に事のあらましを連絡し詳細は後刻、と告げ電話を切った。
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