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作品名:TAKUMI 作者:Shima

第86回   第86話
  得宗寺家に戻った鈴波早苗、改め、榊原早苗は、沙織の復帰と平行し執事夫人として又、沙織が成人し本当の女主人になるまでの仮の女主人として得宗寺家を切り盛りし始めた。テキパキと指示を出すさまはまるでコンピューターのようで、以前の彼女を知っている者なら首を傾げるほどだった。事実、夫である榊原も気押されっぱなしで、どちらが執事なのかわからない始末だ。そういう早苗を若い従業員たでぃは煙たがったが、結果が現れるとそれも除々になくなった。匠などはそれを見て冗談交じりに執事を交換したらどうだ。と榊原に詰め寄る具合だ。慌てた榊原は早苗にもう少し控えるようにと忠告するも逆効果で、かえって早苗を煽ることになってしまうのだった。それでも沙織に対しては菩薩の如く優しく、母親のいない彼女を愛し、慈しんだ。沙織も彼女を本当の母親のように頼っていた。

  季節は秋から冬へと移り、クリスマスの時期を迎えた。冬、デパートはクリスマス商戦が激化していたが、得宗寺家では例年、各方面から主だった著名人を招き、パーティを開いていた。今年も例外ではなく、招待客のリストアップに榊原始め、早苗も実行委員の名簿に名を連ねていた。主催はもちろん得宗寺秀一である。ところが彼はその時期、ほとんど日本にいない。そのため当日帰国し、その足で会場に直行するというのが通例となっていた。招待客はどんなに厳選しても1000人は下らない。その中には各国大使やその家族、政財界は当然のこと、文化人やスポーツ選手も多々含まれていた。日時と場所は毎年決まっているため、頭を悩ますことはないのだが、料理と客選びに実行委員たちは四苦八苦するのだ。特に今年は秀一から密命を帯びているということもあり、例年より苦労も倍増していた。そのことを考えると榊原は背筋が凍るほどの恐ろしさを覚えるのだが、いかんせん、主人の命令とあらばいたし方ない。責めは自分が負い、最悪ならその立場を辞すれば良いだけの事なのだ。しかし、とも考える。これは秀一自身が立てた計画であり、たとえ大ごとになったとしても自分が責任を感じる必要はないのではないだろうか、と。いや、それでも特宗寺家の奥向きは全て任されているということは、やはり、有事の際は自分が責任を負わねばならないだろう。彼の心中は穏やかではなかった。


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