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作品名:TAKUMI 作者:Shima

第80回   第80話
  2人きりになると急に沙織はソワソワしだした。時計を見ると既に11半を回っている。匠はソファに深く腰掛けたまま微動だにしない。それが余計に彼女を落ち着かなくさせているのだ。ベッドから降りてみたり、ドレッサーの前に座って必要以上に髪をとかしてみたり。まだ紫色に腫れている顔半分に触れ、あの時の恐ろしさを思い出すと涙が勝手に零れ落ちた。
その時、彼女の周囲の空気が動き、身体が宙に浮いたかと思った瞬間、ベッドに投げ出された。
「キャッ!!」
声を上げた彼女の目に映ったものは、ひどく歪んだ匠の顔だった。
「静かにしろ!榊原がいなくなった途端、蜂のように動き回りやがって。少しは気を遣え!オレは明日早いんだ。おまえのフラフラに付き合っていられるほど暇じゃない!」
一方的に怒鳴るとジロリと睨み、今度は長ソファに沙織に背を向けゴロリと横になった。いつものことながら沙織はこういう時、匠にとっての自分は何なのだろうと思う。異性として見ていないのではないか。まして、恋愛の対象などもっての外なのではないか。何度も自問してきたが、未だにはっきりとした回答は得られていないのだ。匠に気づかれないよう、小さなため息をつくと、朝早い、と言った匠の言葉を思い出し、それに間に合うよう起きなければと、改めて横になった。
  翌朝。普段通りの朝食がたくみの空腹感をそそった。ご飯に味噌汁、焼き魚、海苔の佃煮、青菜のお浸し、野菜サラダとデザートの梨。味はプロに到底及ばないが、沙織の料理は安心して食する事ができる。ごはんを3杯もおかわりし、着替えのために一旦周防家に戻った。
7時、という時間帯は周防家にとって活動を始めるには早いのである。そのせいか両親共まだ起床しておらず、匠は落ち着いてシャワーを使い、支度することができた。


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