「この若造が何を言いやがる、そういう目つきだぞ。 図星だろう。でもオレは常識を破りたいんだ。経験とか年齢とかで安穏と居座っている連中のな。ただ責任者にはおまえの言う経験者を置く。各セクションごとに経験者を据えるとそれだけで重厚感が出る。ただし料理長は加賀美だ。」 「ぼっちゃん。ぼっちゃんはなぜあの子をそんなに買うんですか?」 匠の入れ込みように白井の心に疑惑が浮かび上がった。 「おまえにはわからないのか。あいつの料理には気配りがある。昼飯を食べた時、感じた。1度目の夕食は大ハズレだったが、2度目の料理は最高だった。オレの漠然としたヒントを解釈し、状態を把握した結果のサーヴィスだ。」 「気配り、ですか。」 「そうだ。 まだ何か言いたそうだな。」 「いいえ、ぼっちゃんの口からそういう言葉が出てきたのが信じられなかっただけです。」 「オレは機械じゃない。心はある。勘違いするな。」 「す、すみません。」 「それで? オレの案は是か否か。それによって加賀美の将来が決まる。どうだ。」 どうだ、と促され、白井は少し考えた後、「ぼっちゃんの意思に従います。」と答えた。 その答えに匠は嬉しそうに微笑んだ。そしてインターホンで榊原を呼ぶとホッとひと息ついた。 「匠さん、緊張していたのね。」 巨体を丸め出て行った白井のうしろ姿を見送り沙織が言った。匠の心中を見抜いていたのだ。 「おまえに見抜かれるようじゃオレもまだまだだな。確かに料理長の言っている事は至極当然のことだった。だから了承してもらえるかどうか不安だった。 オレは少ない可能性に賭けてみたんだ。」 「じゃ、これからは私の出番が減るのね。」 寂しそうに呟く沙織に匠は即座に言った。 「くだらんことを言うな。料理人の作る食い物を毎日食ってたら胃が持たない。おまえは今まで通りの仕事をしていればいいんだ。余計なことを言わせるな。」 「はい。」 「―――― その調子なら明日からでも大丈夫そうだな。」 「ええ、何日も休んだからカンが鈍っているかもしれないけれど。大丈夫よ。」 その時ドアがノックされ榊原が入って来た。
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