「待ちたまえ。私は正気だ。本当は君の夢がどうだろうと関係なかった。私の後継者は君しかいないとずっと考えていたのだ。娘の縁談が持ち上がったのをいい機会だと思ってこうして君を呼んだのだがね。」 「・・・僕はあなたに会うのはこれで2度目ですよ。そんな僕に得宗寺家をくれるって言うんですか?あまりにも馬鹿げている。話になりませんよ。」 「まぁ、座りたまえ。ではテストをしよう。それに君が合格したならグループの覇権をやろう。もし不合格なら・・・10年後。君に譲ろう。無論、娘共々だ。どうだろう。」 「同じ事じゃないか。・・・わかりました。あなたの気が済むならそのテストとやらを受けましょう。それで良いんですね?」 秀一に粘られとうとう匠は根負けした。というよりも『テスト』という響に食指が動いたのかもしれなかった。 「そうか!やってくれるか!では早速始めるとしよう。――― 榊原。例の物を。」 インターホンで榊原を呼ぶとすぐ見慣れた顔が入ってきた。顔には薄っすらと笑みさえ浮かべている。それを見て匠はこの男に謀られた、と思った。
「見たまえ。これが得宗グループの全容だ。・・・・一応、業種別に分けてある。これを見て君の忌憚なる意見を言ってくれ給え。」 そう言って秀一が差し出したのはかなりの数のCD、DVDだった。1枚のディスクでさえ膨大なデータが入るのに、これだけ数があれば(ざっと1000枚はある、と榊原が口を挟んだ。)見るだけでも相当時間がかかりそうだった。唖然としている匠を見て更に秀一は続けた。 「どうした。これを見て気後れしているんじゃないだろうね。これは機密文書だ。公開できるものを加えたら数限りないぞ。まずこれを2週間で読破しなさい。その後再びここで会おう。」 秀一は呆気に採られている匠に背を向けると再びどこかへ電話をかけた。榊原に促され部屋を出て行こうとする匠の耳に軽快はドイツ語が聞こえてきた。
|
|