「おい!しっかりしろ!加賀美!おいッ!」 頬を叩かれようやく気が付いた加賀美だったが、今度は身体中震えがおこってきた。歯と歯がガチガチ鳴っているのが第三者にさえ聞こえる。 「ねぇキミ!料理長を呼んできてくれ!」 榊原は近くを通りかかった掃除係の女の子にひと声かけると加賀美の身体を抱き起こし、傍らのソファに横たえた。 榊原からの伝言を聞いた白井は何事か、と巨体を揺らして走ってきた。 「いったいどうしたんですか?」 ハアハアと息遣いも苦しそうだ。榊原は例のメモを無言で渡すと、別の女の子に濡れタオルを持ってくるよう命じた。 メモを読んだ白井の驚きは榊原以上だった。 「何かがよほどお気に召されたのでしょう。私としても一概には信じられないことですが。ご命令とあらばいたし方ありません。今晩からそうして下さい。 あ、それからこの男の待遇を変えねばなりませんね。」 榊原と白井はヒソヒソと何やら相談し、それが終わると白井だけがその場に残った。本来なら平手を打ってでも加賀美の目を覚まさせるところだが、例のメモが白井に与えた衝撃が大きすぎて容易に次の行動に移れないでいた。副料理長が心配して様子を見に来たときには、加賀美の側でぼうっと座っていた。 「料理長!いったいどうしたんですか。榊原さんに呼ばれて行ったと思ったらそのままだなんて!今晩のメニューのチェックをお願いしますよ。 料理長!」 肩を揺すられ、初めて彼の存在に気づいた。と、ほぼ同時に加賀美も目を覚ました。 「あ?あ、ああ。中井か。 と、 加賀美。加賀美はどうした!」 「は、はい。ここにいます。 すみません。 ご心配かけて。」 「おまえ、大丈夫か?」 「はい。大丈夫です。でも、オレ、どうしたんだろう。」 額のタオルを取り、鏡は身体を起こした。 「まぁ、あんなことがあっては倒れるのも無理はないな。ワシでさえ卒倒するかと思ったからな。」 「あんな事?」 2人、口を揃えた。
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