柱に掛けてあった時計の針は既に11時を回っていた。有馬、真田、そして筆記をしていた刑事は皆、心身ともに疲労困憊していた。それでも匠は今回の事件のあらましをしゃべり続けている。いい加減やめてくれと言いたげに有馬が手を振っても気づかぬふりをして声を大にしてしゃべる、しゃべる。普段の匠ならおよそ考えも及ばないことだが、有馬に対し、かなり頭にきていたので、やっつけてやろうという心積もりだ。巻き添えを食ったのは真田と筆記者の刑事。ようやく長い話が終わったのはそれから1時間後のことである。 「・・・・簡単ですが、ぼくから言う事は以上です。ご質問があればどうぞ。」 キレイな手を有馬に差し出し言葉を促す匠。しかし口を動かすことさえ億劫になっていた有馬は、ガックリ肩を落とし、もう帰っていいというように手を前後に振った。待ってました、とばかりに匠はそれじゃ、と言って急いで部屋を出た。すぐその後を真田が追う。 「申し訳ありません。」 何度も頭を下げる真田。匠はその肩に優しく手を掛け、自分よりずっと背の低い刑事を見下ろした。 「真田さんもああいう人を上司に持つと苦労しますね。」 思いがけない労いの言葉に、真田は声もなくうつむいた。まもなく小刻みに肩が震え始め、足元にポタポタと涙が落ちた。日ごろの苦労がひしひしと伝わってくる。 「近いうちにきっといい事がありますよ。それまでの辛抱です。・・・それでは。」 ポンポンと軽く叩き、匠はウインクをして警視庁を後にした。
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