「それは考えていません。考える余地がありません。僕は1人息子ですし、彼女もそうです。お互い家を守っていかなくてはなりませんから。それに・・・彼女と結婚するということは全世界を背負わなくてはならない、ということです。僕にはそんな力はありません。もしそれが心配で今日僕をお呼びになられたのであれば、それは無用というものです。若輩者ですが僕は分をわきまえているつもりです。」 「では娘のことは何とも思っていないのか。」 「そういう質問には答えかねます。個人的な事ですし、僕達2人の問題ですから。」 「沙織はどう答えるかね。」 「さぁ。 おそらく同じ答えでしょうね。・・・御用がこれだけでしたならこれで失礼いたしたいのですが。」 そう言って立ち上がろうとした匠に秀一が待ったをかけた。 「・・・君は、得宗コーポレーションという企業に興味はないのか。」 「そう、きましたか。もちろんありますよ。もし自分でできるのならやりたいことがあるんです。得宗グループがまだ手がけていない分野だと思います。」 「ほう!うちのグループでまだ着手していない事業があったとはね・・・はて、思いつかんが、良ければ教えてくれないかね。」 「ダメです。教えたら僕の夢じゃなくなる。」 「もし、それが現実となり得るものなら君の才能を私が買うが。 どうかね。」 「買う?それもダメです。僕はプレッシャーに弱いんです。」 「よくもぬけぬけとそんな事が言えるものだ。私が君のことを知らないとでも思っているのかね。私を見くびってはいかんよ。君はプレッシャーがかかるほど力を発揮する人間だと見ていたのだが、私の目がね違いかね?」 秀一の目がキラッと光ったのを匠は見逃さなかった。 「あなたは何でもお見通しのようですね。おっしゃる通り、僕はプレッシャーがかかればかかる程、身体が燃えてくる性質(たち)のようです。それでも、ダメです。」 「条件を出そう。君の夢に私が差し出すものは、私の所有する全得宗グループと娘の沙織だ。これでは少ないかね?」 「なんですって!そんなバカな!からかわないで下さい!」 「冗談ではない。私は君が幼少の頃から帝王学を学んできた事を知っている。それに君の頭脳と武芸で培ったその精神力。今まで娘のやることに目をつぶってきたのは君を私の息子として世に送り出すためだったのだ。決して悪くない条件だと思うが、どうだろう。引き受けて貰えんかね。」 「・・・お断りいたします。先ほども申し上げましたように僕は周防家の長男です。家を潰すわけにはいきません。それにたかが高校生の僕に得宗グループを預けるですって?どうかしてしまったんじゃないですか?そんなこと誰が信じるものですか!」 匠はこんな馬鹿げた話につきあっていられないとばかりに席を立った。
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