医師たちが帰り、どうにか落ち着くと、沢木は目の前にいる女性が気になりだした。匠とは面識があるらしいというのも不思議だ。単に匠だけの知人なら沢木が知らないのも無理はないが、沙織のベッドに付き添っているとなると事情は違ってくる。もちろん、奥向きのことは執事である榊原が仕切っているので沢木が知らないのも当然だ。それにしても妙だ。怪訝な日表情を察知したのかその女性が何か言おうと身を乗り出した。ところが彼女に先んじて匠が口を挟んだ。 「鈴波早苗。榊原の妻女だ。」 え?と驚いたのは沢木ばかりではなかった。早苗の方が驚き、まじまじと匠を見た。 「いいんだ。もうわかっている。あなたから聞いた話から、もしや、と榊原を問いただした。あいつは何も言わなかったが、態度でそうとわかった。」 「榊原さんに奥さんがいたなんて・・驚きです。 でも、名字が違うのはなぜですか。」 「それはオレにもわからない。いくつか考えは浮かんだが、こればかりは夫婦間の問題だから。」 匠はつい、と早苗の顔を見た。早苗は下を向いたまま縮こまっている。 「それに。」匠は続けた。 「なぜこの人がここにいるのかもわからない。あんなに自分の正体を隠そうとしていたのに。これでは沢木のみならず誰もが不審に思う。名字云々はさておき、これだけは説明してもらいたい。・・・どうです?もしあなたができないのなら今すぐ榊原をここに呼んで説明させますが。」 「と、とんでもありません!そんなことをしたらあの人に何て言われるか!」 その態度から想像すると、よほど榊原の出現が怖いらしい。 「では、説明してもらおうか。なぜあなたがここにいて沙織の看病をしているのか。」 4つの目にじっと見つめられ、早苗は手が白くなるほど握り締めた。
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