20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:TAKUMI 作者:Shima

第49回   第49話
  第3埠頭、商南倉庫付近をじわりじわりと取り囲み、真田以下、十数名の警官隊が今か今かと突撃の号令を待っていた。第一斑が現場に到着したのが8時40分。彼らは知らなかったがあと少し遅ければ黒猫のジョージは沙織を連れ出すところであった。もっとも、沙織は薬できっちり眠っていたし、ジョージも前日からの疲労のせいかぐっすり寝込んでしまい、駒木からの電話音で目を覚ましたのが11時。というお粗末だった。
  第二班が到着し、建物周辺は次第に緊迫した空気に包まれていった。ひっそりとひと気のなさそうな倉庫を囲み、じりじりと時間の流れを待つ隊員達。

  外が物々しい光景になっているとは露知らず、ジョージは着信音でビクッと目が覚めた。
「は、はい?」
『何をやってるんだ!早く来い!』
森河の怒鳴り声が耳にガンガン響く。
「す、すみませんッ!すぐ行きますッ!」
慌てて時計を見ると既に約束の(といってもジョージには連絡があるまで待機。という指示が出ていたためそれほどの問題ではない。)時間を2時間も過ぎているではないか。これは大変!とばかりに、まだ薬が効いてぐっすり寝入っている沙織を揺り動かした。
「おい!起きろ、おい!」
何度揺すっても起きない沙織に、駒木からの命令も忘れ、ジョージは平手でその頬をぶった。乾いていた血の跡のそばを新しい血が流れた。ゴフゴフ!苦しさにようやく沙織の意識が戻った。
「足のロープは外してやる。これからある所へ移動しなきゃならないからな。」
「いどう?  どこへ、行くの?」
「もうすぐあんたともお別れだ。短いつきあいだったが別れるとなると情が湧くってもんだ。・・どうだ、オレのコレになんねぇか。いい夢見さしてやるぜ。」そう言って薄笑いを浮かべ小指を立てて見せた。
「・・・いいわ、なってあげる。 その代わり、得宗寺家を本気で背負っていく心構えがあるならね。どう?」
得宗寺家。その名前を知る者にとっては三つ葉葵の印籠を出されたと同じ効果があるのだ。大概の人間はそれだけでしり込みしてしまう。黒猫も例外ではないらしい。突然キョロキョロとあたりを見回し、口数さえ少なくなり、とにかく早くここから出たいという素振りを見せ始めた。
「は、早くしろ!」
効果てきめん。沙織はゆっくりと立ち上がった。少しめまいを感じたが、ここで弱みを見せてなるものか。ぐっと足に力を込めた。
「行きましょう。」
弱腰になったジョージを引っ立て、ドアを開けさせ外に出た。・・・一斉にパパパとフラッシュの光を浴び、一瞬、2人は目が眩んだ。そこを複数の人間が取り囲み、あっという間に1人は捕えられ、1人は保護された。ものの5分とかからないあっけない幕切れだった。すぐ真田は本庁に連絡し、本庁から沢木へ被害者無事保護。の連絡が入った。11時36分のことである。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 14741