彼らは駒木裕一をリーダーとし、常に各々役割が決められていた。駒木はアニメゲイト設立当初からのメンバーであり、将来ゲームソフト界を背負って経つだろうと目されていたほどの人物だった。現在、アニメゲイト社長の日下とは高校時代からの仲間だ。黒猫のジョージこと高田譲二はいわば2人の子分みたいなもので、学業の成績は中の下、というところだが、生まれつきキレイな顔立ちをしていたため、駒木たちの格好のいい広告塔になっていた。役割としては雑用が主で、アニメゲイトに入社できたのも2人の後押しがあったからだ、と噂されていた。他の森河と城瀬はあとから入った工業系の専門学校出身で、趣味が嵩じてゲームソフトプログラマーになった。先輩であるが雑用係の譲二を見下しているところがあるのも技術の有無のなせることかもしれない。とにかく彼らはお互いを駒木は別として『モリ』『トシ』「ジョージ』と呼び合っていた。黒猫のジョージとは譲二が勝手につけたあだ名で、他のメンバーは誰も知らなかった。知れたとしてもバカにされるだけで同調する者などいないということを彼自身、身をもって知っていた。 そういう彼らがなぜアニメゲイトをクビになったかというと、匠の存在が一番の原因。と彼ら、少なくとも駒木は考えていた。匠が会社に関わってこないうちは駒木と日下の関係は至極上手くいっていた。ところが当時中学生だった匠がひょんなことから新規開発のプロジェクトに首を突っ込んだ事から日下の信頼はずっと年下の匠に向けられ、駒木はないがしろにされがちになった。社長の日下としては毛頭そんな気持ちはサラサラなかったが、それまで全てにおいて2人で相談しながら進めてきた駒木にしてみれば面白くない。年は下であったが駒木の匠への感情は嫉妬から憎悪へと変わり、ひと泡吹かせてやろうと企んでいた矢先、他の会社からデータ流出の誘いが舞い込んだ。謝礼金にも魅力があったが、何より周防匠の存在を抹殺したい。それだけで駒木はそれに応じた。言われるまま数社に当時開発中だったカリクレインという名前のソフトを売ってしまった。それが日下に知れることとなり、駒木と部下3名は即座に解雇された。それまでの日下と駒木の友情に免じ、刑事事件にすることをしなかった匠たち。しかし駒木は日下やアニメゲイト、そして匠に復讐するべく新会社、ドリームボーンを設立。資金はもちろんカリクレイン売却で得た数千万だ。数社から得た金額の合計は億単位になったのだが、アニメゲイトから請求された損害賠償金を支払ったため手元に残った分で何とか自社を立ち上げる事ができたのである。初め、ドリームボーンは儲かった。それを元手に事務所を構え、それぞれ所長として森河らを配置したのだが、いかんせん、彼らは経営及び営業はド素人。段々と経営が行き詰まり、結局この事務所と沙織が囚われている倉庫の2つしか残せない始末。そこで計画したのが彼らが辞める時にアニメゲイトが制作していたDUEL 1の強奪。しかし、ただ盗むといっても相手はこの数年の間で飛躍的に伸びた会社だ。簡単に出入りできるものではない。考え抜いた挙句、行動に移されたのがアニメゲイトの親会社である得宗グループ総帥の一人娘沙織の誘拐。そして身代金として要求するのがDUEL 1のデータ・・・金品を要求するよりその方が金になるということを彼らは熟知していた。それをまた他社に売りつければ莫大な現金を手中に納めることができるのだ。誘拐の計画は綿密に練られた。そして実行された。あとはデータと人質を交換すれば完璧の・・・はず。駒木たちは半ば自己陶酔に陥っていた。彼らは又、日下達が警察沙汰にするはずはないとも考えていた。公にすれば新商品の存在が世間に公表され、会社としては大損害を被る事になるからだ。いつも冷静な駒木だが、気持ちの高揚を押さえる事ができなくなっていた。
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