しわ枯れた声が出た。それでも相手には聞こえたようだ。 「ああ!ファンタスティック!素晴らしい!お嬢さん!あんたは最高だ! 私が誰かって? そうですね。私は黒猫のジョージ、とでも言っておきましょうか。どうです?似合っていると思いませんか? あはははは!」 黒猫のジョージと名乗る男は自画自賛し卑屈な高笑いを上げた。 「ここは、どこなの。」 「あんたの知らない所だ。でも安心しろ。外国じゃない。フフフフ。」またいやらしい笑いだ。 「私をどうするの?こんなことをしてタダで済むと思っているの。今すぐ私を解放しなさい。そうすればこの事は不問にしてあげるわ。」 「不問にして、あ・げ・る? バカを言うな!あんたなんてツメの先ほどの価値もあるもんか!得宗グループの1人娘だからさらったまでだ!ブツを頂戴したら用無しなんだよ。バカげてる。まったく・・・」 続きはモゴモゴとして沙織には聞き取れなかった。それからまたイヤな笑いを浮かべ紐をつかむと沙織の両手を縛り始めた。それまでは意識がなかったので不要だったのかもしれないが、気が付いた今となっては両手足を拘束しておいた方が良いと判断したのだろう。 「悪いね。でもこうしないとボクの身が危ないからね。 さて、と。もう10時か。腹が空いているだろうけど我慢してくれ。水しかないから水はやれるけど、それ以外はないんだ。」男は初めて申し訳なさそうな顔をした。 「いらないわ。あなたからは何ひとつ恵んでもらわなくて結構よ。」 「なんだと!」 途端に顔がひきつり、あっという間に平手が沙織の顔に飛んでいた。口の中が切れ、じっとりと血の味が全体に広がる。 「親切で言ってやったのにその言い草は何だ!今度そんな口をきいてみろ、タダじゃ済まないからな!」 狂ってる。目つきで感じた。こういう人間は何を言ってもムダだ。言う通りにしないと何をされるかわからない。ひとまず沙織は男の言うなりになってダンマリを決め込むことにした。
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