「大丈夫ですよ、お嬢さんを傷つけたりしません。昼までの辛抱です。取引が成立したら無事に帰してあげますから。・・・そんなに睨まないで下さい。綺麗な人に睨まれると非常に怖い。」 「んんんん!。」口を塞がれているので不明瞭な言葉しか出せないのが悔しい。 「あなたは誰、そう言いたいのでしょう?すみません。私も役目柄、あなたにこんな手荒い事はしたくないのですが。でも、テープは外してあげたいなァ。」 薄ら笑いを浮かべ、男は沙織に近づいた。プン、と安っぽいコロンの香りがして沙織は眉をひそめた。(日本語の使い方間違っているわ)心の中では全く別の事を考えられる余裕があることに沙織は自分でも驚いた。 男の手がテープに触れ、ぺりぺりとゆっくりはがした。ゆっくりされると逆に痛いのだ。それを顔に出すわけにはいかないとじっと我慢する。それが男の本能をくすぐったのか、いやらしい笑みを浮かべた。 「キレイな人はどんな顔をしてもいいねぇ。フフフフ。」 沙織は身体全体がゾゾッと総毛立つような気がした。匠の冷たい目も恐ろしいが、この男の恐ろしさは常軌を逸するものがある。尋常ではないのだ。更に身体が硬直する。(さわらないで!)叫びたかったが、言葉が喉に張り付いて出ようとしてくれない。 「もう大丈夫ですよ、お嬢さん。」 男は剥がしたテープをもみくちゃにし、ゴミ箱に捨てようとした。しかし手にくっついてしまい、ブツブツ文句を言いながら何とかそれを手から剥がし落とした。それからニヤケた顔を沙織に向けた。 「さぁ、これでいい。私もあなたの声が聞ける。一石二鳥です。」 男の期待に応えるようで虫唾が走るほどイヤだったが、自分の置かれている状況を少しでも早く把握しなければならない。ここはじっと我慢、我慢。 「あ、あなたは、だれ?」
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