心配そうに部屋の前を右往左往していた沙織は突然ドアが開き、匠が出てきたので声をかけようとしたが、その形相を見て思わず怯んでしまった。匠はといえば、沙織など全く視界に入らない様子で、わき目も振らず裏口から出て行った。わけがわからず部屋に入った沙織の目に呆然と立っている榊原の姿が映った。 「どうかしたの? 匠さん、怖い顔をして出て行ったわ。何かあったの?」 沙織の声で我に帰った榊原は慌てて取り繕った。 「でも。変よ。・・・あなたも、いつものあなたじゃないわ。どうしたの?」 「い、いえ。何でもありません。」 彼も変だ。沙織は問い詰めようとしたが、難なく榊原に切り抜けられてしまった。あちらもこちらもダメ。困った沙織はどうすることもできず、どちらかが話してくれるまでひたすら待つしか術はなかった。
翌日の新聞には昨日の試合が大きく掲載された。烏城高校の不正とは?という見出しで始まった新聞は、その模様が写真入りで載っていた。窓から差し込む太陽を背にした佐藤(烏城高)の後方で鏡を持ち、太陽光を反射させ、周防(朱雀高)の目を眩ませる烏城高生。と注釈がつけられている。欄外には連盟理事長名で烏城高校の失格処分と、今後1年間、公式試合出場停止の検討について述べられていた。とかく悪い噂の絶えない烏城高校は、他の部門への影響も懸念される。と社説は締めくくられていた。 朱雀高校には新たなメディアが殺到し、匠の輝かしい経歴に花を添えた。また、烏城高校にも同じように押しかけたが、校内はひっそりとし、レポーターやカメラマンなどの怒号が迷惑だと警察が出向く場面も見られた。
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