「・・・・何から、お話ししたらいいか・・」 「そ、う。 それでは私から伺ってもよろしいかしら?」 「え、ええ。そうしていただければ・・」女性は持っていたハンカチを握り締めた。 「まず・・そうですわ。お名前をお聞かせ下さい。」 「名前は、鈴波早苗、と申します。」 「すずなみさなえ、さん。・・そうね、早苗さんとお呼びしてもよろしくて?・・良かった。じゃ、改めて、早苗さん。・・おいつくですの?女同士ですからざっくばらんにいたしましょうね。あ、忘れていましたわ。私は、沙織といいます。沙織と呼んでくださいね。」 人助けをする際、沙織は決して姓を名乗らない。得宗寺と聞いてビビらない人間はいないからだ。(匠を除いて) 「年は、40です。」早苗と名乗る女性は少しづつ落ち着いてきたようだ。 「まぁ!私、もっとお若いと思いましたわ。だって、とてもお綺麗でいらっしゃるから。」 (出た。沙織の得意とするおだて戦法)匠は心の中でほくそ笑んだ。“美しい”沙織にそういわれて落ちない女はいないのだ。・・・これでこの女性は饒舌になるだろう。 「そんな・・」頬を染める早苗。 「そうですわ。ね?匠さん。」 「あ、ああ。(こいつ。さっきの仕返しをしやがって)」 ふいに声をかけられ匠は返事のあと心の中で毒ついた。 「この近くにどなたかお知り合いの方がいらっしゃいますの?」 「え?え、ええ。まぁ・・」再び口ごもる。握ったハンカチがボロボロになりそうだ。 「私達で捜して差し上げますわ。何と仰る方をお探しですの?」 「い、いいえ。 その人には会って来ました。」 「そうですの。それで、その方に何か言われましたの?」真剣な顔で覗き込む。 「いいえ。何も・・・もう来るな、と言われただけです。」 「まァ!なんてひどい事を!私、ひと言、言って差し上げますわ!どこのどなたですの!」 匠の眉がピッと上がった。オレと同じことを言うヤツがこの近辺にいるとは。 「いいえ!いいんです。私があの人との約束を破って来たのが悪いんですから。」 そこで早苗はさめざめと泣き出した。
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