「あたしたち・・友達だった・・けど、そのことがあってから怖くなって。だんだんと話をしなくなってきてた。・・でも、こんなことになるならもっと話を聞いてあげればよかった。」 張り詰めていた神経が突然切れたのか真央は人目もはばからずオイオイ泣き出した。脇に控えていた婦警が気を利かせ彼女を別室に連れて行こうとすると、ふと何かを思い出したのかふいに立ち止まった。 「どうしました?」 「クリスマスのあと。 まゆみがあンまり落ち込んでるみたいだったから、あたし、大丈夫って声をかけたの。そしたらまゆみ、あたしにはヒロミがついてるから平気よって言ってた。 でも・・・今までそんな名前聞いたことなかったから、だれ?って聞いたの。・・そしたら・・最強の支援者よって。それだけ言って淋しそうに笑ってた。それ以上は秘密だからって教えてもらえなかったの。」 そう言って出て行きかけ再び立ち止まった。匠を除く全員が注目すると、真央はかなりためらっていたが、意を決したように振り返った。その視線は匠へ注がれた。 「あの・・周防クン。」 全員が匠を見た。それまでじっと目を閉じていた匠はゆっくり目を開き、けだるそうに真央を見た。 「周防クンにお願いがあるの。」 「・・・・」 「こんなことになったけど、まゆみを恨まないで。まゆみはただあなたのことが好きだっただけなんだから・・・」 既に彼女は落ち着きを取り戻しているようだった。それでも目には涙が浮かんでいる。 「・・・わかりました。先輩。そういたします。故人となった人を恨んでも仕方がありません。」 匠の答えに真央は淋しそうに微笑み、婦警の伴われて出て行った。真田は丁寧だが、どこか奇妙な匠の話し方に違和感を覚え、2人が出て行くとすぐそれを口にした。ところが匠は1つでも先輩には違いないからそう言ったまで、と平然としている。 「そう、ですか。・・・私らの時代は高校っていうとあまり上下関係はなかったんで、タメ口きいてましたけどねぇ。そういうもんなんですねぇ。もっともそのせいで警察学校では苦労しましたけども。 いや、話を逸らしてすみません。今の話で何かわかりましたか? ヒロミという人物が新たに浮上してきましたが、その名前に心当たりはないですか?」 「いいえ、ありません。もっとも周囲の人間すべてを把握しているわけではありませんから、ぼくだけが知らない、ということは十分考えられますが。 それに男女関係なく使用されている名前の1つですから、それだけでは性別すら特定できませんね。偽名という可能性もある。・・それにしても。 何が目的で彼女に近づいたんでしょうね。そのヒロミ、という人物は。一見して坂下という女性は、ごく平凡な高校生にしか見えないんですけどね。」 「わかりました。そのあたりを周囲の人間に当たってみます。」 真田は矢田に目配せをすると彼も心得たものですぐ行動を起こした。矢田を見送ると、匠は小さく息を吐いた。そして心の中で恐らくムリでしょう、と呟いた。 「真田さん。申し訳ありませんが、一旦帰宅しても宜しいでしょうか。矢田さんからの報告をここでじっと待っていても仕方がありませんから。」 「は?あ、はい。すみません。ずっとおつきあいしていただいて。わかりました。矢田から何かしら連絡があればすぐご報告します。ありがとうございました。 あ、車で送りますから少々お待ちを。」 「それにはおよびません。恐らく迎えの車が来ていると思いますから。」 なるほど玄関に出てみると1台の高級車が止まっている。驚く真田を尻目に匠は静かに後部座席に乗り込んだ。車は音もなく滑り出し、あっという間に警視庁の前から消え去った。
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