「さあ。さっきの話をこっちの刑事さんにも話してくれるかな?」 矢田刑事がやさしく語りかけると彼女はハッとして視線を真田に移した。そして2、3度頷くと、 「あ、あの、あ・たし、 山本真央っていいます。 まゆみとは小学部から同じクラスでわりと仲が良かったンです。 だからまゆみが周防君を好きになったときなンか、絶対ムリだからやめなさいって何度も言ったンです。それなのにまゆみったら全ッ然あたしの言うこと聞かなくって。だんだんエスカレートしていったンです。・・・初めは、ってか、小学部の頃はただ試合があるときとか、練習のときに入りとか出待ちするくらいだったのに、中学に入った途端、ストーカーのようになってしまって・・・最近はなンかとってもショックなことがあったって言って、とっても落ち込んでいたンです。」 山本真央という少女の証言に真田は時折匠を垣間見た。だがその都度、匠はわずかに首を振るばかりで一向に接点が見当たらない。しかし、ストーカー行為を匠が全く気づかないことのほうが真田には奇異に思えた。 「坂本さんはどんな風にしてストーカー行為のようなことをしていたのかな。きみの知っている範囲で答えてくれるかな。」 「あたしも、何度か付き合ったことあるンだけど、まゆみは周防君チから学校までの通学路の何ヶ所かにビデオを取り付けていたの。もちろんそれは部活動の一環てことで学校から持ち出したやつだったから、自腹じゃないの。朝はだいたいの時間がわかるけど、帰りの時間がわからないから苦労するって言ってたわ。24時間作動できるビデオなんて学校には置いてないってことみたいだったから。あたし、まゆみに頼まれて何度か手伝ったことがあったの。でも、とっても大変だった・・・こんなに苦労するほどの男なのか、とも思ったわ。けど・・・」 最後に真央はチラッと匠を見た。真田もつられて匠を見たが、当の本人は腕を組み、目を閉じていたのでその表情からは何も推し量ることはできない。真央はホッとひと息ついた。 「けど、どうしたんだい?」矢田刑事が先を促した。 「けど・・・そうやっているうちにまゆみの気持ちもわかるようになってきたの。でもカン違いしないで。あたしは別に周防君が好きになったンじゃなくって、まゆみの気持ちがわかるって言うだけよ。」 「ああ、わかるよ。誰もそんなこと思っちゃいないさ。きみはあくまでも坂本さんの友達だからね。・・それにしてもビデオを取り付けるというのは普通じゃないよね?取り付けたのは坂本さん本人?」 「だと、思うわ。だって他の人に言ったらすぐみんなにバレるでしょう?」 「そうだね。で、きみが手伝わないときは坂本さんが1人で操作してたの?」 「たぶん。 でも毎日やることができないって言ってたから、もしかしたら一週間に何回かだったかもしれない。できないときは写真部員の特権をフルに活用したって言ってた。風景を撮るふりをして写真撮ってたって言ってたし。」 「なるほどね。・・で、きみはなぜ最初の頃ムリだからって反対してたの?」 「だって、そんなのわかりきってるわ。非の打ち所が無い人よ。一般民が太刀打ちできる相手じゃないわ。それに得宗寺さんを敵に回してまで勝負する気にはなれないでしょう?誰だってそう思うわ。周防君と得宗寺さんは何回もベストカップル賞に選ばれてるくらいなンだもン、その間に割って入ろうとする人は少なくとも朱雀高にはいないわ。」 「その得宗寺さんだけどね、坂本さんは得宗寺さんを脅していた事実があるんだけど、きみは知っていたかな?」 矢田刑事に代わり、真田が口を挟むと真央はビクッと身体を震わせた。しかしその姿に動揺は見受けられない。知っていたことは明らかのようだ。 「・・・カミソリを入れた手紙を見せられたことがあった。・・・あ、たし・・・でも止められなかった。あの時のまゆみを見てたらきっと、誰も、できなかったと、思う。」 そのときの状況を思い出したのか、一点を見つめ、怯えた声を出す真央。 「きみを、脅した。ということなのかな?」 その質問には即答せず、真央は小さく首を振った。
|
|