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作品名:TAKUMI 作者:Shima

第121回   第121話
  なんと、それは匠のスナップ写真であり、開かれた手帳にも匠の顔だけを切り抜いた写真と全身像の写真が貼られていた。パラパラとページをめくると匠の行動が日付順に克明に記されている。更に驚くべきことは匠本人でさえ忘れていた小さな練習試合の結果までが年代順に記録されていた。それは匠が頭角を現し始めた小学校3年生の頃までさかのぼられていた。
「これは・・・」
言葉を失い、匠は目で真田に訴えた。沙織も「まぁ!」と言ったきりで言葉が続かない。
「これを見たとき私もなんと言っていいか、本当に驚きました。ところが彼女の友人の間ではかなり有名な話で、将来自分は周防さんのお嫁さんになると公言していたそうなんです。この写真も自分で撮るため写真部に入り、時々新聞部に撮ったものを提供していたそうです。もっとも彼女のはほとんどが周防さんのものだったようで、新聞部員も閉口っと、失礼。あの、なんと言いましょうか・・・困ったこともあったそうです。すみません。なんだか変なことを口走ってしまって。」
暖房は効いているがそれほど暑いわけではない。にもかかわらず、真田は額に吹き出た汗を何度もぬぐった。
「いいえ。お気になさらず先を続けてください。」
「は、はい。・・ですから交友関係といってもあまり広くはないようで、教室でも少し浮いた存在だったそうです。その数少ない友人からの情報によれば、クリスマス以降、彼女がふさぎがちだったとかで、周防さんの話をすると突然涙ぐんだり、時には泣いてしまうこともあったそうです。2、3日前などはあまりのひどさに1人にしてはおけないといったような話も友人間で交わされていたそうです。ただ、なぜクリスマス以降なのか、皆目見当がつかないと付け加えていました。ですから友人たちは事件の一報を聞くとまっさきにやってしまった。と思ったそうです。ただ、自殺かどうかまだわからないということを伝えると、しきりに首をかしげていました。・・・まぁ、今日一日でわかったことがこのあたりまでで、周防さんのお役に立つかどうか心配なのですが。」
今度は頭をポリポリ掻いて恐縮している。情報量の少ないことを恥じているように見えた。
「いいえ。充分役に立ちましたよ。なにしろ僕がかかわっていたんですからね。ただ、あらかじめ言っておきますが、僕は無関係ですよ。その坂下まゆみという3年生の存在すら知らなかったんですから。まぁ言い訳がましいと言われればそれまでですが。」 
「ええ!それはもちろんですとも!同じクラスの生徒からもそのことはウラが取れてますから。『坂下さんはああ言ってるけれど、周防君、彼女のことなんて知らないはず。彼女の1人芝居はミエミエだ。』と口を揃えて言ってました。ご安心ください。」
当然の事、と真田は胸を張った。
「それをうかがって安心しました。・・・では、真田さんの今日一日の疲れを取る面白い情報をお教えいたしましょうか。それによってあなたの疑問が1つ解けるかもしれない。」
面白いという割りには匠の目は笑っていない。むしろ怒っているのではないか、と真田は肌で感じた。
「なんでしょう。あなたの目は面白がっているようには見えませんが。」
不安の色を隠さず真田は言った。
「怒ってる? そう見えたのならそうなのでしょうね。でも客観視すればこんなに愉快な話は滅多にありませんよ。」
「わかりました。聞かせてください。」
真田はぐっと身を乗り出した。


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