ほどなく榊原に案内され真田がキョロキョロしながら入って来た。広大な得宗寺家の敷地面積に驚いたのか腰が引けているようだ。匠が自分の前のソファを勧めると真田はテーブルの上に置かれた新聞の量に目を丸くした。 「これは・・」 「今日の新聞ですよ。これから読むんです。」 「こんなに?・・いったいどれくらい・・?」 「日本全国津々浦々。新聞は各県にあるでしょう。ぼくの日課ですよ。というより仕事でしょうか。一面はどこも同じようなものですからね。コツさえ掴めばそんなに大変でもありませんよ。むしろ行かずして各県の話題がわかるのですから楽しい方が多いですね。」 簡単に言ってのける匠に真田の顔は驚きから賞賛へと変わった。 「やはりあなたはすごい人だ!学校だけでも大変なのにこんなことまで。私なんか1つのことでも身体が2つ3つ欲しいと思うのに。これだけのことをたった1人でやってしまうなんて!」 「ぼくもこの身体が分離されて各方面に顔を出せたら、とよく思いますよ。」 ウソか真か、匠の口ぶりには余裕さえ感じる。 「ほんとうですか? とても信じられない。」 「あなたにウソを言っても何の得にもなりませんよ。それに警察の方にウソを言ったら捕まってしまいますよ。・・・それより何かわかったのですか?」 匠は沙織が淹れたコーヒーを真田に勧め、自らも美味そうに飲んだ。 「あっ!は、はい。それがわかった部分と不可解な部分とがありまして、何とも判断がつかないんです。」 真田は手帳を取り出すとペラペラとめくった。 「と、言うと?」 「はい・・あのう・・」 そこで真田は口ごもり、チラッと沙織に目をやった。 「ご心配なく。 単なる助手ですから何を聞いても他言はしません。」 「はぁ、ですが・・」 「ご心配には及びません。意外に役に立つんでしょ。初対面でもないことですし、どうぞ気になさらずに。ところで、判断がつかないとはどういうことですか?」 話を元に戻そうとする匠に引きずられ、真田も意を固めたようだ。コーヒーをごくりと一口飲むと、ソーサーごと端へ押しやった。 「実は、昨日の彼女の行動なんですが、朝、家を出たきり全く足取りが掴めないのです。両親に聞いたのですが、学校へ行った時には特に変わった様子はなかったそうです。いずれにしても両親が混乱していて落ち着いて話を聞ける状態ではなかったのですが。今までもクラブの後身指導で朝早く出かけたきり夜遅かったりすることはよくあったそうです。それから教室においてあったカバンの中から驚くべきものが見つかったんです。」 そう言って真田は手提げ袋からキャラクターものの手帳と一枚の写真を取り出しテーブルの上に置いた。それを見た瞬間、匠は大きく目を見開いた。
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