「実は、今朝の6時頃、こちらの警備会社から我々に通報があったんです。」 「通報?」 「ええ。北側校舎3階の女子トイレで生徒が首を吊っているという内容でした。・・・おや?その腕はどうなさいました?」 ギプスはまだ取れないが、なるべく普段と変わらぬ服装をしていたせいで真田が気づくのに遅れたのも無理はない。 「ええ。ちょっと練習中にケガをしたんです。 それよりも話を続けて下さい。首を吊ったというのはどういうことですか。」 「我々が現場に駆けつけた時には既に死亡しておりました。現在は検死のため遺体は緑ヶ丘病院に搬送しました。」 「自殺。ですか?」 「それが、なんとも言えないのです。」 「と、言うと?」 匠の瞳が静かな光を帯び始めた。興味を持ち始めた証拠だ。 「遺書らしき物も見当たらず、遺体の傍には第三者がいたような形跡があるのです。」 「第三者?ということは殺された、ということですか?」 「うーん。それがはっきりしないです。」 それから真田が説明したところによると、110番通報があったのは5時50分頃。ちょうど宿直当番だったのが真田の部下で、昨年警視庁に配属になった若干23歳の佐藤という刑事だった。彼はすぐ真田に連絡を取り、その指示のもと数名の警官と共に現場に駆けつけた。真田が合流したのが6時40分。現場には通報した警備員が彼らを首を長くして待っていた。真田たちが到着すると、こっちこっちと大げさに手招きした。 一番奥のトイレの上部に対角線に棒を張り、頑丈なロープで輪を作ってその生徒は制服のままこちらに背を向け宙に浮いていた。生徒手帳から3年生の坂下まゆみという女性徒であることが判明。すぐ家族に連絡すると同時に、鑑識係が呼ばれた。 その後、現場写真を撮り終え、遺体が病院に運ばれたのは匠たちが登校するわずか数分前にことだった。真田が警官たちに指示を与えようとパトカーに戻って来たときにはすでに大勢の生徒たちで一杯になっていた。彼らに揉まれながらパトカーに近づき無線連絡をしている最中、ちょうどいい具合に匠が現れた、ということだった。
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