20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:TAKUMI 作者:Shima

第107回   第107話
  巷ではクリスマス商戦も終わり、今度はお正月から春に向けての商戦が始まっていた。得宗グループのデパートも例外ではなく、皆、売上に躍起となっている。そんな中、暮も押し迫った31日。身内だけで匠と沙織の婚約が発表された。本来なら大々的にパーティなどを開くところであるが、本人達がまだ高校生であり、学校や友人に知られたくないという強い要望で、得宗寺家の従業員と匠の両親のみ、出席した。大晦日ということで従業員は希望者だけの参加だったのだが、全員が快く出席すると返答した。秀一の威光もあったかもしれないが、若い2人をこれから守り立てていこうという気概が感じられた。
  12時。濃紺のスーツを羽織り左腕を吊った匠と、ピンクの牡丹をあしらった清楚な振袖を着た沙織がロビーに現れると、全員が割れんばかりの拍手で出迎えた。日ごろ笑顔をあまり見せない匠だが、拍手の歓迎に自然と口元がほころんだ。沙織はほんのり頬を染め、ぴったり匠の半歩後ろに付いている。榊原の司会で立食形式パーティが始められた。無礼講ということもあり、2人はそれぞれの輪の中心になった。親たちは年配者同士、料理長やルーム係長たちも交え自然と一団になった。沙織を中心とする女性グループがキャッキャッと華やかなのに対し、匠を中心とした若者男性グループは必然的に話題が仕事に関することになり、余人を寄せ付けない雰囲気である。中にはなぜ加賀美を抜擢したのか、と具体的な質問も飛び出し、さながら会議のようになる場面もあった。それに対し、匠は1つ1つ明確に答えた。そんな彼をじっと秀一は見守っていたのだが、ふいに誰かが目の前に立った。眉をひそめ顔を上げると、それは目に涙を溜めた明子だった。ハンカチを手でもみくちゃにしながらしきりに何か言いたそうにしている。
「あ、あの・・あの子は私たちに似ず、少しは出来の良い子だと思います。・・ち、小さい頃からほったらかしにしてきたというのに、沙織ちゃんのお陰で大きくなれました。ありがとうございます・・これから、これからは会長さんの頭痛のタネになるかもしれませんが、どうぞ、どうぞ、末永くお願いいたします。」
深々と頭を下げる明子に、1人息子を奪ってしまったという罪悪感が突然秀一の心にわきあがった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 14741